PR
PR

作家・樋口毅宏が問う「やれやれ、村上春樹が好きな男はキモいんですか?」

ライフ
ライフ
PR
PR

①ユダヤ系

②企業に勤めていない

③60歳以上

これは30年以上前、開高健が人生相談エッセイ『風に訊け』に書いていたことです。①②は変わりませんが、③の先進国は高齢化社会が進んでいるため、現状還暦ではもらえません。ボブ・ディラン(代表曲は『風に吹かれて』。春樹・開高・ディラン、「風」が3つ揃った!)も初めて候補の名前を聞いてから10年。80歳になってようやく受賞しました。春樹さんは現在75歳。いまも毎朝ジョギングして健康ですが長生きして下さい。

でも僕はひとつ心配があります。まわりが好き勝手に期待して盛り上げるだけ盛り上げておきながら、結局ノーベル文学賞を取らないまま終わったらその反動でそう遠くない未来、村上春樹が今ほど読まれなくなるのでは――。大好きな作家だけに要らぬ不安を抱いてしまいます。日本人がいかに軽薄か、半世紀以上日本に住んでいて知っているつもりなので。

PR

本題に入ります。今回の「春樹がキモい」問題ですけど、以前から「男っていつもこんなにセックスのことばかり考えているのか」といった感想を見聞きしていたのでショックは感じませんでした。そういった人たちの生理的嫌悪感を理解できなくはないんです。でもですね、むかしの作品を何もかも現行法で裁くのは無理があるし、もっと言うと野暮なときもあるって気づいたほうがいいかと思います。アップデートは大事ですが、「正しい」の基準は刻々と変わりますから。

あと古今東西、歴史に残る文学作品の主人公は控えめに言って性格が悪くて当たり前です。『人間失格』、『雪国』、村上春樹作品の「僕」。何を考えているのか周囲からはわかりづらいし、映像化で成功したものも思い当たりません。「キモい」は一刀両断できる魔法のワードですが、使い方を誤らないようにするのが今回の騒動の教訓でしょうか。

 

文/樋口毅宏
写真/Wikipediaより(撮影/Ministerio Cultura y Patrimonio)
初出/実話BUNKAタブー2025年1月号

タイトルとURLをコピーしました