漫画好きの識者の方々に、思い入れのある鬼畜で外道な主人公を挙げてもらった!
PROFILE:
古泉智浩(こいずみ・ともひろ)
通しで出していたら4~5巻になっていたのでは
松永豊和著『バクネヤング』の外道、鬼畜ぶりが凄まじい。
無法者の馬久根(ばくね)は、手始めにヤクザの下っ端をパチンコ屋で襲い、おびき出した暴力団事務所の構成員の大半を爆死させる。マスコミのヘリコプターを乗っ取り、日本最大の暴力団組織の親分を人質にして大阪城に籠城し、大阪及び日本中のヤクザ、警察を相手に大暴れする。そうして馬久根が殺した人数は600人に及ぶ。
雑誌連載では馬久根がほぼ絶命状態に陥る場面で終わる。その後の完全版に収録された描きおろしはヤクザの親分の娘、蓮華を中心に話は進む。蓮華はとんでもない方法で米海軍の空母キティホークを支配下に置き、日本の中枢を狙う。馬久根が日本中のヤクザと警察を相手に互角以上に戦うのも、蓮華がキティホークを操るのも荒唐無稽が過ぎるのだけど、過剰に緻密で丁寧な描写が不自然に感じさせない。
馬久根はパンパン人を撃ち殺し、日本刀で機動隊員の腕を力任せにねじり切って、興奮のあまり腕を生で食べる。外道、非道、そして鬼畜の所業だ。ところが、被害にあった人々、被害者遺族には申し訳ないのだけど、馬久根は無邪気に暴れ回っているだけで、悪意や邪悪なものが感じられない。それに、馬久根の出番は意外と少なくて、警察の本部長、ヤクザの若頭、馬久根の中学時代の担任教師の城山、城山の傭兵時代の仲間の忍者、そして蓮華など周りの濃すぎるキャラが馬久根以上の存在感で、馬久根に対する怒り、恨みなど人間の負の側面を表出する。
なおこの漫画は2巻まで単行本が発売されたきり、3巻が発売されずに『ヤングサンデー』の連載が終わってしまう。今回は2000年に全1巻として発売された『バクネヤング完全版』を改めて読んだ。当時購入したまま、読まずにいたのであった。それというのも、1巻2巻を持っているのになんだよ完全版って、3巻を出せと腹立たしく思っていたのだ。しかし全1巻とはいえ、742ページにも及ぶ大作だ。1、2巻が薄い本だったので、通しで出していたら4~5巻になっていたのではないだろうか。
完全版の初出を確認すると1995年に『ヤングサンデー』での連載が第10話までで終了し、その後『ヤングサンデー増刊大漫王』にて11回分の連載が掲載されて、その後200ページもの分量が未発表で制作されていた。約1/3が描きおろしであった。
15年くらい前に漫画家がトークイベントを行う機会が頻繁にあり、大阪で松永豊和さんとご一緒した。松永さんは好きな映画というお題で『レナードの朝』を紹介して、そのストーリーを頭から最後まで全部話した。聞いているうちに感動して涙が出た。
