八木 ミヒャエル・エンデの『モモ』ですね。小学校の図書室にあった児童書なんですけど時間泥棒というのが出てくるんです。時間銀行というのを作って時間を預けさせることで、みんなが余裕を失ってイライラしていくというお話なんですね。児童書だけあって、ミヒャエル・エンデさんが子供に伝えたい言葉がいっぱい書かれているんですけど、その中に「人間には時間を感じとるために心というものがある。もしその心が時間を感じとらないようなときには、その時間はないも同じだ」という一節があるんですね。時間というものがいかに尊いかを教えてくれて、当時の私は、時間を自分のために使わなくちゃいけないなって思ったんです。本を読んでいる時間が、私にとってとても有意義なんだって。これがきっかけで色々な本を読むようになったんです。大人になってから読み直して、さらに好きになりました。
――大人になって読み直すと、より深く理解できることってありますよね。
八木 本の魅力ってそこにもあると思うんです。例えば今日読んだ本が面白くなかったとしても、3年後、5年後に読み直したらとんでもなく面白く感じたりするんです。その時の自分の心の向きに合ってるかどうかなんですよね。『モモ』は今でも、思い出す度に読み返してる一冊です。
八木奈々が選んだ珠玉の小説
――そして八木さんが選んだ2冊目は、宮沢賢治の名作『風の又三郎』ですね。
八木 父が持っていた本もよく読んでいたんですけど、これもその一冊です。最初の「どっどど どどうど どどうど どどう」って有名ですけど、これが私が初めて触れたオノマトペかもしれません。とても面白いなと思いました。宮沢賢治さんは、目で読んでいたはずなのに耳に残る感覚というか、今の時代の作家さんにはいないような伝え方をするなって。子供だったから語感が楽しいんですよね。
――これはお父さんがずっと持ってた本なんですね。親子二代で読み継いでるのはいいですね。