八木 中学校に入ってからミステリーにどハマリするんですけど、そのきっかけになったのが、筒井康隆さんの『残像に口紅を』です。かなり実験的な小説なんですね。世界から言葉が消えていくというお話で、「あ」が消えると「あなた」だったり「愛」だったりも消えていく。だから本の中でもその文字が消えていっちゃう。どんどん使えない言葉が増えていくから、残っている文字だけで書いていかなくちゃいけない。これ、作家としては無謀な挑戦ですよね。
――書くのに、使える言葉がどんどん減っていくわけですもんね。すごく難しい。
八木 自分に対する挑戦みたいな試みじゃないですか。それでもちゃんと終わり切っているのがすごいんです。本って文庫なら300円くらいで買えるじゃないですか。私は彼の人生を300円で買ったんだ、とんでもないチート術だなって感じました。これを読んだのと読んでないのでは、人生が全然違うなって。まぁ、小説の入り口としては、意味がわからなすぎるので、誰にでもお薦めするというわけにはいかない作品ですけど。
――そして4冊目は、海外の小説ですね。レイモンド・チャンドラーの『ロング・グッドバイ』。渋いなー。ハードボイルドの名作ですね。
八木 はい、フィリップ・マーロウっていう私立探偵が出てくるんですけど、イケメンなんです(笑)。すごく余裕のある男に見えて、子供っぽいところもあって。もう尊いですね。マーロウが出てくる作品はたくさんあるんですけど、その中でもこれのマーロウが本当かっこよくて一番好きです。
――訳者が村上春樹なんですね。
八木 村上さんの訳でキュンとなってしまったのが、最後の方の「さよならを言うのは、少しだけ死ぬことだ」の言い回し。これで私は撃ち抜かれましたね。マーロウかっこいい! って(笑)。
――ハードボイルドな男はかっこいいですか?
八木 かっこいいです。
――さぁ最後の5冊目は?