58本目・『0課の女 赤い手錠』その第二回
近い将来、総理大臣の椅子に座るかもしれない男(丹波哲郎)の娘(岸ひろみ)が誘拐された。
誘拐された、というより拉致、強奪された。犯人グループのリーダー(郷鍈治)が出所してきて仲間(荒木一郎、遠藤征慈、菅野直之)がそれを迎えた、その足で、河川敷でデートしていたカップルを襲撃、殺人、拉致したのだ。
デートしていたカップル。そのデートは幸せでたのしい、甘いものではなかった。にがくて苦しいデートだった。男は過激派の学生。わかりやすいようにゲバ字が踊るヘルメットをかぶってのデートである。一目瞭然、わかりやすい。東京東映に多大な影響を与えた石井輝男。野田幸男監督の演出、極端に無駄を省くドラマ展開。それでいて描きたいところはたっぷり描きこむその姿勢。その姿勢がこの異様な、ほとんどの観客の、かすかに残っているであろう気弱なモラルを徹底的に拒絶する。
そして女が前述の近く総理の椅子に座る男の娘である。愛しているけども決して父は許さないでしょう、そう言って娘が泣く。そこへ現れるのが郷鍈治たちである。そもそも女を食い物にした犯罪が専門のとんでもない悪人たちである。過剰な演技、堂々とした不気味な演技、見る者に不快感しか与えない極悪人を郷鍈治、遠藤征慈、菅野直之がみごとに演じきっている。家族や恋人が見たら「俳優というのはこんな仕事をしなければならないんですか、お願いだからやめてください」と、まず言うであろう大熱演である。
映画やテレビの仕事はたいへんである。そういう役がある。私もそういう役や役回りを演じることが多かったので郷鍈治、遠藤征慈、菅野直之のがんばりに涙腺が緩んでもおかしくないのだが、いや、それを上回る悪辣な雰囲気、大熱演に。そして野田幸男のクールな演出のせいもあり。ただただ不快でただただ腹が立つ。吐き気を催して再生機の停止ボタンを押すひとがいても咎められない。むしろ正常な神経かもしれない。
犯人グループのなかで郷鍈治に次ぐ権力者がヒゲとサングラスで顔がほとんどわからない荒木一郎である。主演映画もあれば歌手としても超一流、紅白歌合戦にも出ているスターである。この役をふられて、台本を読んで、おもしろいとは思ってもこれに出ていることをあまり人に知られたくなかったのかもしれない。実の母は名優、荒木道子である。