漫画好きの識者の方々に、思い入れのある泣ける漫画を挙げてもらった!
PROFILE:
古泉智浩(こいずみ・ともひろ)
漫画の実力者であり異能者
コージィ♡城倉著『かんとく』は、平凡な高校野球部の監督を任せられた30歳の国語教師が、妻子がありながら女子マネージャーを愛人にするなど適当でチャラけた人物でありながらも生徒の手前、熱血かつ厳格な監督ぶりを装うといったコメディ野球漫画だ。主人公のすーさん率いる御簾田高校は甲子園など遠く及ばず地区予選の1回戦を勝つかどうか、大差負けしなければ御の字というレベルだ。
実は僕の息子が小6で少年野球チームに所属している。度々試合を見る機会があり、そのたびに野球はどんな試合であっても面白いと思う。接戦ならどちらが勝つか最後まで分からない面白さがあり、実力差があってボコボコに負けている場合でもアウトを取れるかどうかがめちゃくちゃスリリングだ。先日、高校野球の夏季大会地区予選が近所であったので見に行くと、実力のない公立高校同士の対戦で、お互いのOBや家族の少数が応援していた。弱いチームはエラーやファーボールが多い。そんなチームどうしの対戦であっても勝負の流れでどちらにもチャンスがあり、ゆるいながらも見せ場たっぷりだった。中でも応援の太鼓を叩いていたのが金髪のギャルで、OBの彼女なのだろうか練習などしたことなさそうで、とても楽しそうに打ち鳴らしていた。『かんとく』の前半がまさにこのような雰囲気で、彼らなりの切実さや刹那さ、夏のひと時を感じた。
状況が一変するのは、新年度となり新一年生が入学してからだ。彼らの中に沼野という中学での野球経験のない男がおり、彼がとんでもないピッチングをする。まったくの我流で速球と抜群のコントロールで一躍エースとなる。最初の練習試合で前年の甲子園出場高校を負かせてしまったので今年は甲子園を目指せると大騒動になる。また新一年生には沼野以外も実力者だらけで、レギュラーメンバー9人のうち7人が一年生のチームで夏の大会を迎えることとなる。面白くないのは3年生たちだ。これまで3年間がんばってきたのにあっさりレギュラーの座を奪われてしまった。
御簾田高校は順調に地区予選を勝ち進み、決勝戦で前年優勝の砂川学院と対戦する。ところが準決勝の最後でエースの沼野が軸足の足首を怪我して、怪我を押して登板したためまともなピッチングができず1回に10点先制される。監督のすーさんはこの次点で甲子園を諦め、メンバーの1年生を全員下げ、実力で圧倒的に劣る3年生に交代させるという暴挙に出る。
すーさんとしては彼らに思い出を作らせてやろう、甲子園で色めき立つ学校の経営陣やOBたちに対する抵抗など意図しての行為だったが、その3年生たちは1年生たちの影で努力を続けており堅実なプレーができるようになっていた。最初の目標は「1点取ってやろう」だ。3年生たちは砂川のエースの得意としている落差のあるカーブ打ちの練習を徹底して行っていたのだ。10点差があるのに送りバントをするなど1点を目指して攻撃していると相手の油断もあり、初回の攻撃で1点獲得した。次の目標は「もう1点取ってやろう」だ。その後も堅実に得点を重ねとうとう10対9で最終回を迎え、ゲームの流れは完全に御簾田にあり誰もが逆転を期待する。最後の打者は、4番でキャプテンでありながらレギュラーを外された玉田だ。
玉田の打席がどうなったのかは描かれない。しかし御簾田高校はこの大会で優勝できず甲子園出場はならなかった。
