漫画好きの識者の方々に、思い入れのあるバッドエンドを挙げてもらった!
PROFILE:
古泉智浩(こいずみ・ともひろ)
ナツの心の闇
阿部共実著『ちーちゃんはちょっと足りない』の最終回はこれでいいのかと問題を突きつける。たいへんかわいらしい絵柄で中2女子の人間模様を描いた漫画だ。ちーちゃんとナツは同じ団地に暮らしていて、どちらも母子家庭で貧困にあえぐ生活をしている。ちーちゃんは知的障害が疑われるレベルで発達が遅れており、中2なのに九九がやっとで精神年齢も小1くらいだ。そんなちーちゃんを下に見ながらも友達のナツは自己評価と自己肯定感がきわめて低いが気位は低くない。自分を常に他者と比較している。ヒエラルキーでは中の下くらいで、上位のクラスメイトに憧れ、ブイブイ言わせているヤンキーグループに批判的な目線を送っているが一番の仲良しは最下層のちーちゃんだ。しかしちーちゃんは素直で直情的で感情を爆発させることはあっても、自分を人と比べてくよくよしない。
ある時、ちーちゃんがヤンキーグループが集めたお金をこっそり盗む。盗んだ3000円から1000円をナツに渡す。ナツは盗んだお金であることを知りながらも、その1000円で欲しかったリボンを買う。リボンを手に入れた喜びとともに罪の意識に苛まれる。翌日ナツは学校に遅刻して、すぐに保健室に行って寝たまま過ごす。その間にちーちゃんは盗みがバレて吊るしあげられる。ヤンキーグループは実は気のいい連中だったため泣いて謝るとすぐ許されるし、その上ヤンキーたちと仲良くなる。
最終回でナツの罪が追及されると思ったらそういうわけではなく、ナツはちーちゃんのことを思いながらも結局自分中心で、自分を守りながらも自分を否定する内面の地獄が描写される。問題と向き合わず背中を向けたままであるため、心の重しは加速度的に重さを増していく。変わりたくても変われない、そして最後の心のよりどころがちーちゃんしかない。これでいいわけではなく、しかしどうすればいいのかも語られず、こういうことですよとエモーショナルに突きつけてそのまま終わる。ナツの心の闇は深くなるばかりだが、ちーちゃんはそばにいてくれる。この世界には流れに身を任せるよりしかたのないこともあるのだ。
