王様の乳首は本筋じゃない
最近、地上波テレビでも見かけることが増えた経済学者の成田悠輔さんですが、彼の「高齢者問題を解決するためには高齢者による集団自決が必要」というたとえ話が批難されています。まあ、仕方ない。
深刻な問題について、耳目を集めるために極論で人の生き死にをたとえ話にして笑いが起きてたら、真面目な人に怒られるのは仕方ないことです。
それとですね、フックとしてあんまキャッチーで強い言葉を使うと、本論をちゃんと聞かずにそこだけ反応する人がでてきます。全体把握せずに否定してくる人よりも、全体把握できずにたとえ話の中の単語にだけ肯定的に反応しネットではしゃぐ人の方が問題。
まあ、成田氏が本論で何を言ってるのか理解してないであろう人が民族自決の意味を取り違えためちゃくちゃな擁護をしていたのは、成田氏にも迷惑だろうし、明後日の方に話がいっていましたが。
成田氏の持論は、言ってはいけないとされていることの中に真実がある。それはそうだなと思います。それはそうなのですが、言い方とかその真実は必要かとか色々考える時はあります。
「王様はハダカだ!」と言うのはいいんですが、「王様が黒くてデカい乳輪の勃起した乳首を晒しているぞ!」みたいに言ってしまうと、確かにその場でウケはとれるでしょうけど色々な問題が生じてきかねません。
王様がハダカであること、もっといえば王様は詐欺師に騙されていて自分がハダカであると気がついてないことが問題なのに、そういう風に言ってしまうと王様の乳首の話になってしまって、本来の話がどっかにいってしまいます。
だいたい、本当は王様の乳首の形や状態がどうであろうと何の問題もないし、王様に責任があるわけではないのです。でも、いきなりそんなこと言われたら笑ってしまうし、便乗した奴がさらに「いじりすぎで肥大している」とか余計なことを言いだしかねないような失礼な言い方はだめですよ!
言っても意味がないことがある
あとね、普通に「ハダカだ!」と言われただけならともかく、変な擦られた方をしたら絶対ムカつくに決まってるし、禍根が残ります。乳首でウケをとろうとしたささいな出来心によって、一つの街が滅びる悲劇が生まれたらどうするのでしょう。
自分、幼稚園の年中さんのクリスマス会でサンタに扮した園長先生を見て「サンタじゃなくて、園長じゃん」と大声で言ってしまう嫌な子供だったんですよね。
今になって思えば、あれ自分だけが気づいてたわけじゃなくて、気づいていたけど言わなかった子も何人もいたと思うんです。サンタを信じてる子とか園児を喜ばせようとしている先生たちに気づかって。
言ったところで何か問題が解決するわけでもないし、そもそも何の問題もそこにないし。だいたい、ただの出し物だし。幼稚園の余興で園長がサンタに扮しているという事実はサンタの非実在の証明にも別にならないわけで、言うこと自体に意味がない。
本当だったら何でも言えばいいかといえば、別にそんなことはないので、言っても意味がない、言ったところで問題の解決に貢献しないようなことは本当でもわざわざ言わなくていいのではないでしょうか。
真面目な話を面白くしすぎない、言っても意味がないことはわざわざ言わない、自分だけが真実に気づいてると思ったりしない、そんな感じでほどほどに生きていきたいもんです。
文/ロマン優光
初出/実話BUNKA超タブー2023年3月号
PROFILE:
ロマン優光(ろまんゆうこう)
ロマンポルシェ。のディレイ担当。「プンクボイ」名義で、ハードコア活動も行っており、『蠅の王、ソドムの市、その他全て』(Less Than TV)が絶賛発売中。代表的な著書として、『日本人の99.9%はバカ』『間違ったサブカルで「マウンティング」してくるすべてのクズどもに』(コアマガジン刊)『音楽家残酷物語』(ひよこ書房刊)などがある。
twitter:@punkuboizz