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関東大震災デマとクルド人デマ:ロマン優光連載306

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震災直後の飛ばし記事、警察の調べによってそのような事実はなかったと確定され、内務省の震災報告書でも虚報の例として提示されているような記事、当時の警視庁官房主事であり、治安出動を指揮した正力松太郎自身が「朝鮮人による暴動はデマ」(当初、そのデマを警察や軍が煽っていたのだが)であったことを認めているような事柄を書いているデマ記事を根拠としてあげる人間(そういった歴史修正的な本の著者を含めて)の神経が本当にわからない。

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朝鮮人による暴動は実際にあった説は10年代に急速にネット上で広がりをみせたのだが、2014年に出版された『関東大震災「朝鮮人虐殺」はなかった!』(著者・加藤康男 出版・ワック)という本の影響が大きい。この本は加藤康男氏の妻であるノンフィクション作家・工藤美代子氏(怪談本作家としての評価も高く、実際に面白い)の名前で2009年に出版された『関東大震災「朝鮮人虐殺」の真実』(出版・産経新聞社)とほぼ同内容である。同内容の本の著者の名義が変更されるという不可思議な事態の事情についてはよくわからない。加藤が書いた本をセールス面を考えて保守系のノンフィクション作家として知名度の高い工藤名義で当初出版したということなのだろうか。

この本での朝鮮人による暴動は実際にあったという根拠は、工藤氏の実父であるベースボールマガジン社創業者・池田恒雄氏が正力松太郎から内務大臣・後藤新平の要請で隠蔽するように頼まれたという話を聞いたということなのだが、この本以外にそういった話は確認できないし、池田氏は故人で本人に確認もできず、そういった証言を実際にしたのかどうかもわからない。

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そういう不可思議な根拠に基づいた上で、無茶苦茶な資料の切り取りで「事実」を形成しようとしている本なのだが、「九月、東京の路上で-1923年関東大震災ジェノサイドの残響」(ころから)の著者・加藤直樹氏らによる二つの検証サイト「『朝鮮人虐殺はなかった』はなぜデタラメか」、「工藤美代子/加藤康男『虐殺否定本』を検証する」で問題点が多く指摘されているので是非見て欲しい。

「朝鮮人虐殺はなかった」はなぜデタラメか | 関東大震災時の朝鮮人虐殺を否定するネット上の流言を検証する
工藤美代子/加藤康男「虐殺否定本」を検証する

しかし、現在SNS上で朝鮮人による暴動は実際にあったと主張している人の大半はこの本にすら目を通していないだろう。後藤新平による隠蔽説(後藤新平が語ったとされる理由も不可思議なものだが)という奇妙な根拠があって、はじめて当時の新聞報道は事実であるという話が成り立つ。そうしないと政府がデマであったと認めたことの説明がつかないのだが、そういったことも考えずにデマ記事の画像を張って得意気になっている人間のいかに多いことか。

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