66本目・『実録三億円事件時効成立』その4
犯人夫婦を演じた小川真由美さんと岡田裕介さん。このふたりが映画の冒頭、台所で立ったままめしを喰うシーンがある。
競馬から帰ってきた岡田裕介さんは腹が減っていた。家に帰ったらテレビやベッドなど家財道具がなくなっていた。借金取り立ての業者が持ち去った直後であった。
なにもなくなっちゃった、と妻は床を転がって泣いた。大熱演、すばらしい演技である。
三億円を強奪した後、派手な暮らしをしたら警察に目をつけられてしまうので質素な生活をしている夫婦。真由美さんは夜の街に働きに出て、裕介さんは家でその帰りを待っている。酔って帰ってくる真由美さん。不貞を疑ってなじる裕介さん。私が好きでこんな暮らしをしていると思うの、泣いて苦しむ真由美さん。大熱演、すばらしい演技である。
当時、映画、テレビで主演作がヒットして誰もが知るトップスターの真由美さんではあったが、この東映東京撮影所の一風変わった特別な企画に気分が乗っていたのではないだろうか。
それと、石井輝男監督と小川真由美さんの相性はよかったとJは思うのだ。
それは石井輝男監督がつげ義春先生の大ファンということに拠るものである、とJは思っている。
石井輝男さんはとにかくつげ義春さんの作品世界が好きだ。それは福間健二さんがまとめられた『石井輝男映画魂』(ワイズ出版)のなかでもしっかりたっぷり語られているし、そこで石井さんが生きているうちにつげさんの作品を映画にしたい、と語った、そしてそれが実現した『ゲンセンカン主人』(キノシタ映画・シネセゾン)。その映画の立ち上がり直後にJは石井さんにスカウトされて参加した。それ以来、話も聞いたしこの目でも見た、感じた。石井さんはつげ義春さんの作品世界が好きだ。
それは説明しようとすれば長くなるがひとことで言えば〈人生〉である。
Jちゃーん、それはどうかなー、と言われるかもしれない。
〈リアリズム〉
〈現実〉
〈生きている実感〉
〈うそのない世界〉
石井さんの映画には突拍子もないことが多々発生する。首都高速のトンネルの中をセスナ機が飛んだりする。それはもちろん現実にはありえない。うそかもしれない。そういうことではなくて。
人間の描き方。
人間の姿。
そこの話。
小川真由美さんのふとした瞬間に見せる表情、そこに石井さんの恋焦がれるつげ義春さんの世界が見える。
Jはそう思っている。
つげ義春さんの『チーコ』という作品。
それがこの映画『実録三億円事件時効成立』には再現されている。すばらしい。もちろん物語は違うしクレジットもされていないが。
さきほど記した、夜の仕事から真由美さんが帰ってきた、その場面である。真由美さんの雰囲気はつげ先生の漫画から抜け出てきたようだ。裕介さんもつげ先生の漫画から抜け出てきたようだ。
(この項、つづく)
『実録三億円事件時効成立』(1975年、東映東京)
企画∶太田浩児、坂上順
原作∶清水一行
脚本∶小野竜之助、石井輝男
撮影∶出先哲也
照明∶川崎保之丞
録音∶広上益弘
美術∶藤田博
編集∶祖田冨美夫
音楽∶鏑木創
監督∶石井輝男
※杉作さんの新刊『あーしはDJ』(イーストプレス)が発売中!
<隔週金曜日掲載>
画像/『実録三億円事件時効成立』のDVDジャケ
PROFILE:
杉作J太郎(すぎさく・じぇいたろう)
漫画家。愛媛県松山市出身。自身が局長を務める(男の墓場改め)狼の墓場プロダクション発行のメルマガ、現代芸術マガジンは週2回更新中。著書に『応答せよ巨大ロボット、ジェノバ』『杉作J太郎が考えたこと』など。
twitter:@OOKAMINOHAKABA



