36本目・『愛を複製する女』
この映画はクローン技術によって誕生するもうひとりの恋人。その恋人との関係を描いた映画である。舞台は近未来。の、ヨーロッパのかなりの田舎町。海沿いの寒村である。
どれぐらい未来かはわからないが主人公の少女が引っ越していく先は日本。東京。72階に住む、という言葉が印象に残る。少女は大人になり海沿いの町に帰ってくる。異国の、都会の生活が馴染まなかったのだろうか。
この映画はクローンとの関係性がすべてではあるが、それ以上に私のこころに残ったことがある。
それはどんな未来になっても田舎町での素朴な暮らしというのはあるのだ、ということ。
ま、もちろん実際にはどうなるかわかりませんよ。都市部にすべての人を集めたほうがコストは抑えられるし管理もらくでしょう。山奥や離島まで郵便を配達する手間もかからなくなる。
コストのことだけを考えたら人間はすべてひとつの町に住むようになるかもしれない。
だが、本当にそうなるだろうか。
私は思っていない。
人間としてうまれて。
人間じゃなくて鳥や猫でもいいのですが、便利だからと一か所に集められたくない。
ひとそれぞれ、ひとによっても時期それぞれかもしれないが海や山、川や星空を見て暮らしたい。
クローンで恋人は複製できても主人公を演じるエヴァ・グリーンは海沿いの寒村に帰ってきた。
寒村の食堂にロボットは見当たらない。
手作りの生活がそこにある。
それでいい。
その町でクローンを欲するかどうか、ある種否定的に描かれていると思う。それはクローンで生成される恋人がそれほど魅力的でないからだ。
ほかに誰かいるだろ。
ここに俺もいる。
私はこころのなかでエヴァ・グリーンに訴えていた。彼女の視野の狭さが悲しい。もういちど言う。
ここに俺もいる。
出演/エヴァ・グリーン、ルビー・O・フィー、マット・スミス、トリスタン・クリストファー、レスリー・マンヴィル、ピーター・ワイト、ハンナ・マーレー、ナタリア・テナ、ウンミ・モサク
企画/ゲルハルト・マイクスナー、アンドラース・ムヒロマン・バウル
撮影/ピーター・ザトマリ
音楽/マックス・リヒター
監督/脚本/ベネデク・フリーガウフ
<隔週金曜日掲載>
画像/上記作品 DVDジャケット
PROFILE:
杉作J太郎(すぎさく・じぇいたろう)
漫画家。愛媛県松山市出身。自身が局長を務める(男の墓場改め)狼の墓場プロダクション発行のメルマガ、現代芸術マガジンは週2回更新中。著書に『応答せよ巨大ロボット、ジェノバ』『杉作J太郎が考えたこと』など。
twitter:@OTOKONOHAKABA