ノーベル賞受賞者が出した結論
こんなことを言うと、「あなたは企業役員や政治家の男女比率を知らないのか!」というフェミニストからの叱責が飛んできそうである。なるほど確かに、いわゆるエグゼティブと呼ばれるような職業、経営者や企業役員という仕事に就く女性は少ない。大学の研究者や、医師や、コンピュータープログラマーなどにおいても同様である。長年フェミニストはこれこそが女性差別の証拠であるとして女性支援の必要性を叫び続けていた。
しかし、これらは本当に女性差別の結果なのだろうか。少なくとも2023年にノーベル経済学賞を受賞したクラウディア・ゴールディンはそうした見解に断固としたノーを突きつけた。男女の賃金格差の原因を実証的な手法を用いて研究したゴールディン氏は、「女性差別」を理由とする賃金低下がほぼ存在しないことを突き止めたのだ。
ゴールディン氏はMBA(経営学修士)を取得した女性の賃金を分析し、子供がいない未婚女性には賃金低下がほとんど生じないことを発見した。つまり女性の低賃金化は「女性が差別されているから」ではなく「出産育児を経て女性が仕事から離脱するから」であるとゴールディン氏は証明したのだ。
これだけなら「女性に育児役割が押し付けられているからだ!」という反論も成り立つが、出産による女性の労働離脱は夫の年収が妻の年収を上回る場合にのみ発生するというバイアスもゴールディン氏は発見した。
つまり、「ハイスぺ男と結婚したい!」という望みを持ち、見事その夢を叶えて労働から降りた女性たちによって女性全体の低賃金化は生じており、差別もクソもないという赤裸々な実態が明らかになった。これを「女性差別」と言うことはできないだろう。ハイスぺ男と結婚できなかった独身バリキャリ女性は男性と遜色ない所得を得ているのだ。低賃金化の原因が女性差別や女性への偏見にないことは自明である。
ゴールディン氏のノーベル賞受賞は、いま欧米のフェミニストとアンチ・フェミニストの間に巨大な激論を巻き起こしている。ゴールディン氏はある意味ではフェミニストであり、女性の社会進出を実現させたいという動機から諸々の研究に着手したわけだが、得られた結論は「女性差別など存在しない」という主流派フェミニズムにとってかなり都合の悪い結果だった。
ノーベル賞受賞者の選考には政治的意図が多分にあると言われるが、フェミニズムにとって明らかに都合の悪いゴールディン氏が選ばれたことは、過激化するフェミニズム運動に対する欧米エスタブリッシュメント層の警戒感を表しているのかもしれない。