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銭湯で見た絶望的な世の中での明るい光:適菜収連載11

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「変な客がいるけど、直接注意すると角が立つからさ、顔や髪の毛を浴槽につけるな、タオルを浴槽に入れるな、浴槽で泳ぐなという注意書きの張り紙をしたほうがいいんじゃないかな」と。

その2日後、その銭湯に行くと「泳がない。潜らない。騒がない」という旨の新しい張り紙が浴槽にあった。

対応が早すぎる。私は久しぶりに感動した。「今の世の中、何を言っても無駄というわけでもないのだな」と。

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その店員の青年が脱衣所にいたので、チップ1000円を渡そうと思って声をかけた。すると彼は「張り紙をつくったのは僕ではなくて女性の店員なんです」と。さらに私が「あと、タオルを浴槽に入れるなという項目があれば完璧だったね」と余計なことを言ったため、チップを渡しそびれた。なかなかスマートにはいかない。

その数日後、店員の青年がいたので、「先日はありがとう。前回、チップを渡しそびれたから」と1000円札を差し出すと、「いらないですよ」と受け取り拒否された。変な奴だと思われたのかもしれない。

それでも、自分にとって身近な場所を守ることは大切だと思う。腐った世の中を変えることは不可能だとしても、目の前にあるゴミをゴミ箱に捨てることは可能だし、目の前にいるゴミのような人間を牽制することはできる。その積み重ねが、最低限の人間の生活を守るということだと思う。

 

初出/実話BUNKAタブー2024年7月号

【プロフィール】
適菜収(てきな・おさむ)
1975年山梨県生まれ。作家。大衆社会論から政治論まで幅広く執筆活動を展開。『日本をダメにした新B層の研究』(K Kベストセラーズ)『ニッポンを蝕む全体主義』(祥伝社新書)など著書多数。

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PROFILE:
適菜収(てきな・おさむ)
1975年山梨県生まれ。作家。大衆社会論から政治論まで幅広く執筆活動を展開。『日本をダメにした新B層の研究』(K Kベストセラーズ)『ニッポンを蝕む全体主義』(祥伝社新書)など著書多数。

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