実話BUNKAタブーでの適菜収氏の連載を実話BUNKAオンラインにもアップ。第6回は、猫も杓子も保守を名乗っている現在、その自称保守たちによる「日本スゴイ論」について。
6回:自称保守による「日本スゴイ論」
いよいよ日本も本格的に危なくなってきた。
精神的な面においても凋落が止まらない。
先日はネトウヨライターの百田尚樹と、デタラメだらけの百田の“事故本”『日本国紀』を編集した有本香が「日本保守党」なる新党を立ち上げた。
百田いわく「安倍(晋三)さんが亡くなってから、自民党の発言、動きを見ているともうダメだと。ほかに支持する政党がない。自分が立つしかない。立てるしかないと思った」。北方領土の主権の放棄、急進的な移民政策、日米地位協定の維持……。戦後レジームからの決別を唱えながら戦後レジームを確定させ、アメリカ属国化を進め、財界や政商にひたすら媚び、統一教会などの反日カルトやジャパンライフなどの詐欺組織の広告塔だった安倍という究極の売国奴を礼讃してきた「保守」って一体何。寝言は寝てから言えという話。
もっとも確信犯的にこの類のビジネスをやっている連中になにを言っても無駄。問題はお仲間が集まる情弱向けのカルト月刊誌などで与太を飛ばしているだけでなく、政治にかかわるようになったら一般人にも迷惑がかかることだ。
百田は結党宣言で「神話とともに成立し、以来およそ二千年、万世一系の天皇を中心に、一つの国として続いた例は世界のどこにもありません。これ自体が奇跡といえるでしょう」と述べていたが、万世一系に学術的根拠はない。要するにカルトである。
こんなことをしないと自国を肯定できないのも情けないが、精神が衰弱している人は、こうしたパチモンに飛びついてしまう。連中が、反中・反韓、「日本はスゴイ」などと騒いでいる間に、日本人1人当たりの名目GDPは台湾や韓国に抜かれた。
ここまでくれば、連中の目も覚めるだろうと考えるのは甘い。逆に、現実から目を逸らし、信仰を深め、より濃縮されたバカになってきた。
しかし、一流の人間は「自分は一流だ」とは言わない。イチローも大谷翔平も「俺はスゴイ」とは言わない。
夏目漱石は講演「現代日本の開化」で夜郎自大の日本人のメンタリティを分析した。日本は追い詰められて開国し、西洋の「モデル」「青写真」をお手本にして近代国家の体裁を整えた。漱石は「上滑り」という言葉を使ったが、近代の受容が表層的なものであったがゆえに、近代を内部から批判する態度としての保守主義の受容も表層的なものだった。
この負の影響は現在にまで及んでいる。わが国においては復古主義者や右翼(理想主義者)が「保守」と誤認され、挙句の果てには新自由主義者や売国奴、カルト、単なる情弱まで「保守」を自称するようになった。世界史における自国の位置、本当の実力を理解していないから、自画自賛して舞い上がったり、逆に不安を募らせ、チープな「日本スゴイ論」に飛びつく。こうした隙につけこむ愛国ビジネスがわが国にとって害しかないことに、日本人は気づくべきだ。
初出:実話BUNKAタブー2024年1月号
「性加害」という言葉への違和感:適菜収連載5
「公共」という概念がなくなった:適菜収連載4
日本維新の会は近代特有の病:適菜収連載3
日本語が通じない人があまりに多い:適菜収連載2
国家とはなにか、国民とはなにか:適菜収連載1
PROFILE:
適菜収(てきな・おさむ)
1975年山梨県生まれ。作家。大衆社会論から政治論まで幅広く執筆活動を展開。『日本をダメにした新B層の研究』(K Kベストセラーズ)『ニッポンを蝕む全体主義』(祥伝社新書)など著書多数。