320回 松原タニシと実話怪談に関するモヤモヤ
実際の事故物件に住み、そこで起こった怪奇現象を怪談として語る活動で知られる芸人の松原タニシ氏が自身のYouTubeチャンネルで公開していた動画の一つを削除したことについての報告が、2024年12月9日、所属事務所である松竹芸能からあった。
該当の動画は実際の有名な殺人事件の現場となったマンションに関するもの。12月初頭にVTuber・懲役太郎氏があげた「松原タニシさんにお願いです【大阪姉妹殺人事件の被害者家族の関係者から】」(懲役太郎氏と被害者家族の関係者との関係や経緯の詳細はわからない)から始まる一連の動画に端を発し、こういう事態になったという。この物件に関するエピソードは書籍化、映画化もされている。また、2021年の11月にYouTubeチャンネル「日影のこえ」で被害者遺族の関係者に取材した動画があげられており、映画化されたことに対する遺族の悲痛な声が伝えられている。
松竹芸能側は「当該動画では物件を示す表現はなされておらず、また、これまでの活動の中でも故人の方を幽霊と表現したことはございません。」としているが書籍では簡単に特定することが可能な情報が書かれているし、既に死刑になっている犯人の霊が現れたかのように読める箇所もある。書籍などでは事件以前から霊が現れていたとしているが、書籍をもとにしたフィクションである映画版では被害者の霊であると解釈するしかない描写がある。被害者が死後も苦しんでいるというのは、遺族・関係者には耐え難い話だろう。当該マンションは被害者遺族の親族の所有物件であり、自殺などがあったように語られているが事実ではないということも、懲役太郎氏の動画では語られていた。
動画単体の問題ではなく、書籍の情報、映画の内容との相乗効果もあると思うが、広がりやすく、事件についていい加減な情報をばら撒くような便乗動画が増えていくような影響があるので、YouTube動画について削除を要請したという。
松原氏の活動は実話怪談と呼ばれるジャンルに属するものだ。実話怪談とは、筆者・演者が自分の体験した怪異、実際に体験したことであるとして人から聞いた話、筆者・演者が実際に体験した話を聞いたと主張している話を怪談として発表するものである。それが客観的に事実であるかどうかはわからない。おおまかに分けると、現代民話的なものと、実話であるという担保をつけることで創作としての怪談に必要な「文学的」な描写、背景の説明をできるかぎり排除し、即物的に即効性のある怪異だけを扱うことを可能にしているものの二者があると私は思っている。以前は書籍がメインであったが、最近はイベントやYouTube動画の語りが主流になっている。