315回 楳図かずお死去
上京して以来、吉祥寺に行くと赤白ボーダーのシャツで元気に歩いている姿を頻繁に見かけていた。あんまり、頻繁に見かけるので、それが当たり前のような気分になっていた。ここ何年か街で見かけることが少なくなり「確かに高齢だし、ちょっと心配だなあ」と思っていたのだけれど、一昨年にも101枚もの新作連続絵画の展示があり、年齢からは考えられないような仕事量に驚きつつ、まだまだ大丈夫だと安心感をいだき、去年のインタビューも創作に意欲的だったし、なんだかんだで、これからも何らかの形で新作の発表が続くような気がしていた。
それが、11月5日に訃報が飛び込んできた。先月の28日に亡くなっていたのだ。胃がんだったという。
楳図かずおという名前を最初に意識したのは幼稚園に通っている頃、友達の家にあった『のろいの館』(友達のお姉さんが買ったものだったと思う)という単行本を読んだときだった。「赤んぼ少女」が収録されていて多くの子供たちと同様に夢中になって読んだのだが、そこまで怖さに怯えたという記憶はない。それより、瀕死のたまみがラストで殊勝な態度になり、長々と謝罪の言葉を述べてから死ぬシーンになんともいえない不思議な気分にさせられた記憶のほうが強い。
幼稚園から小学校低学年にかけて『ミイラ先生』『怪』『恐怖』『まだらの恐怖』と秋田書店からでている単行本を読みふけっていた。「へび少女」をはじめ、それらに収録されていた作品に当然夢中になっていたのだが、一番怖いと思ったのは実はこういった作品ではない。
あの頃の私が本当に恐怖でおびえたもの、それは夏休みに母の実家へ里帰りした時に読んだ叔父の持っていた『まことちゃん』だ。いや、『まことちゃん』が怖かったわけではない。もっと正確に言えば、どど彦様が怖かった。どど彦様が美形の面を被ってでてきたのだけど、その面を突き破って歯が飛び出てくるところが本当に怖かった。怖くて読み返せないので、これが正確な描写かどうかはわからないのだが、本当に怖かったのだ。おむつ軍団を見て楽しく笑っていたのに何でこんな怖い思いをしなければ、ならないのか。本当にそう思った。
あと、らん丸が爺さんの姿になるところも何故か怖かった。
恐怖漫画よりも、ギャグ漫画である『まことちゃん』のほうに恐怖をおぼえるシーンが多くあり、ほんとにトラウマだった。
巻末にある『アゲイン』の広告も何故か怖くて、実際に読むまで時間がかかった。なんで、あんなに怖かったのか謎だ。