この手の企画では「この漫画の最終回が~」が定番だが、なら初回で語ることも可能では? 最終回の逆は初回だし。漫画の好事家たちに、初回が魅力的な漫画を3作品を挙げてもらった。今回は植地毅さん。
PROFILE:
植地毅(うえち・たけし)
専門分野はジャンル映画、漫画、ゲーム、反体制音楽などボンクラ趣味全般の五十路売文家兼デザイン業。座右の銘は「橋のない川に橋をかけるのが男の仕事」。
X:@DEADANDBURIED5
伝説の第1話
今号のお題は「この第1話がとんでもない」だが、筆者は基本的にグルメ&料理人漫画しか読まない偏食野郎なので、今回も得意カテゴリーから特に印象深い3作品をセレクトした次第。
まずは『ザ・シェフ』。80年代中盤のバブル期に発生したグルメ漫画ブームの勢いで誕生した本作は、一度でも見たことがあれば、それが漫画神・手塚治虫の『ブラックジャック』フォロワーなのは明白(原作の剣名舞先生も認めている)。故に、料理よりも人間ドラマが重視されており、第1話「幻の料理人」では、中東から来日したアラブ人政治家をOMOTENASHIすべく、晩餐会のメニューのため主人公である天才料理人・味沢匠を超高額報酬で雇うのだが、そのアラブ人が話す「ダリザンウウモ」「リワカオ、リワカオ」という日本語逆再生の言語が気になりすぎて、肝心の料理自体が何だったのか全く思い出せない(単なるポトフ)。まあ、40年前の漫画にアラビア語の表記はハードル高すぎではある。
作画担当の加藤唯史先生は平成29年に亡くなられたが、現在も『ザ・シェフ リブート』(作画:伊藤ひずみ)で新作連載が継続中だ。
次にグル漫ブームの発火点『美味しんぼ』である。伝説の第1話「豆腐と水」で読者の度肝を抜いた「産地の違う3種の豆腐と水の素性を当てる」というデスゲームならぬ食ゲームは、それまで勝負一辺倒だった職業ジャンル漫画から、食材重視と健康被害を訴えるグルメ漫画へと大きく変貌させる歴史的転換点だった。さらにこの豆腐と水の話は、アニメ、実写ドラマ、そして劇場版映画まで形を変えながら幾度となく披露され、作品を知らずとも豆腐と水のネタは知ってる人も多数。近年ではサブスク配信によって海外でも人気が高まっている(特に宿敵・海原雄山の罵詈雑言ボキャブラリーがすごいと評判)。