そして『命にぎり』(昭和55年/少年サンデー)である。本作は寿司漫画の元祖『鉄火の巻平』(昭和53年/芳文社コミックマガジン/原作:大林悠一郎)を生み出した、漫画家たがわ靖之先生による読み切り作品であり、後の『巻平』パイロット版に位置する。しかも原作は史村翔(武論尊)が担当!『北斗の拳』の武論尊先生が寿司漫画の原作をしていたのは驚きだが、『命にぎり』は勝負一辺倒の物語ではなく、魚介の鮮度や米選び、海苔の味にも言及した寿司ネタ知識が満載。これが『巻平』への布石となり、青年誌=寿司漫画というジャン棲み分けの礎を築いたのは紛れもない事実だ。『巻平』は『将太の寿司』や『江戸前の旬』に代表される寿司漫画の開祖であり、過酷な職人修行とスポ根を合体させたロジックは後続作品に多大なる影響を与えたのである。
たがわ先生は平成12年に53歳という若さで急逝されるが、筆者はお別れ会の席で『週刊漫画TIMES』の担当編集者だった方から「実は『美味しんぼ』原作者の雁屋哲が『巻平』の大ファンで、編集部に挨拶に来た」という逸話を聞いた。たがわ先生は、生前に筆者がインタビューした際には全くそんな話はされなかったので、その熱血感溢れる劇画スタイルとは裏腹の、謙虚極まりない先生のバイブスに改めて心を打たれた次第。この場を借りて没後25年となる、寿司漫画のパイオニア・たがわ靖之先生の功績を改めて讃えたい。
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文/植地毅
画像/『ザ・シェフ』(1)(原作:剣名舞 作画:加藤唯史/講談社)
初出/『実話BUNKA超タブー』2025年7月号