辻田 大都市に軍隊が進軍し、占領したら、普通の想像力があれば「何かが起こった」と思うはずですよね。実際いろんな証言も残ってるわけで。でも「虐殺があった/なかった」の両極が論争しているから、その「普通の中間層」が面倒くさくて黙ってしまって、より両極が先鋭化する。本来は、その「中間層」に訴えかけることが大事だと思います。健全な中間層が納得し、訴求される歴史を言語化するべきだと。ただ、歴史書に関しては、専門家による研究者やマニアに向けた本は多く出ています。その一方で、特に近現代史では「日本は正しかった」「間違っていた」というイデオロギー先行のものがあり、「その間」がすごく少なくなっています。かつては歴史の本はほんのり歴史を知りたい、中間層に向けた本が強かったんですよね。「ビジネスマンが学ぶ太平洋戦争」みたいな。
――「坂本龍馬に学ぶベンチャー精神」のような文庫が、駅の売店によく売っていましたね。
辻田 中間層にとっては、「日常生活に活かすことのできる歴史」がデフォルトだと思うんですよね。でも、そういう人向けの本は、専門家からは批判されるわけですよ。「曲解だ」「現代に引き付けすぎてる」「データが古い」とか。そうやって攻撃されるし、出版不況もあって、みんなそういう本を書かなくなってしまった。でも歴史は司馬遷やヘロドトスの昔から現代との対話だし、そういう「ほんのりした教養」を中間層は求めてると思うんですよ。みんな「ゆっくり解説」とか好きじゃないですか。WikipediaをAIに読ませてるだけだったりするのに(笑)。
――ハハハ。あれこそ「ほんのり知る」ですね。
辻田 歴史を知りたいけど専門書は重い、という人にはそれが合ってるわけですよね。私自身もYouTubeや配信番組に出るのは、本の宣伝もありますが、そういった人に向けて情報発信すれば、じわじわと効果があると思っているからなんですね。本を書くのも、ネットに出るのも、私の場合は公共と繋がって、公共的に何かを訴えて、一般の人に知識を繋げるかっていう仕事だと思っている。いま、この部分があまりにも蔑ろにされていることも、歴史修正主義や陰謀論が広がる一因になっていると思います。
――陰謀論の広がりについてはどうお考えですか?
辻田 勉強熱心な人こそ、そうなりがちなので、一旦ハマると、そこから引き離すのは正直難しいと思います。極端な意見はどんな集団でも1~2%はいて、一定の確率で陰謀論者が生まれるのはやむを得ない。でも、それが5~10%と増えていくと、マズいことになる。だから、陰謀論にハマる前に、いろんな選択肢を用意して、そのパーセンテージを増やさない努力が必要だと思うんですね。だから私ができることは、まともな動画や記事、原稿を発信して、健全な選択肢を提示することなのかなと。
激変したプロパガンダの環境
――一方で、YouTubeやSNSのアルゴリズムによって、興味や志向がブーストされる状況もあります。プロパガンダを研究されてきた辻田さんには、その状況はどう見えていますか?
