43本目・『ゴジラ×メカゴジラ』
※本記事は連載70『ゴジラ×メカゴジラ』の続きです。前記事はこちらから。
八景島に到着。細かく記憶にないが撮影現場はすぐわかった。何百人というエキストラの人たちが撮影に参加していたからだ。ゴジラが上陸して逃げる人たちの担当である。
私は前もって台本をいただいていた。が、スタッフと合流するのはこの日が初めてであった。当時、私は蛭子能収さんのご尽力で東京乾電池グループの芸能プロダクションに所属していた。そのオフィス経由で役が決定し、出演することになったのだ。
なんといっても世界のゴジラである。
伝統のゴジラである。
夢にも思ってみなかった僥倖である。
私はひとりぐらしで配偶者や子供はいなかったがいたら家族の前で泣いたりはしゃいだりしただろう。祝杯に酔い、その夜は妻を抱きしめただろう。
で、私は撮影の前の晩、眠れなかったのだがかすかに、かすかにだがしっかりと、疑念があった。
人間違いではないのか、と。
そんなに大きな役ではないが、ちゃんとセリフがある。
ゴジラが上陸して逃げる人たちのなかのひとりだが、車での移動はやめてくださいと言われてるなか、車で逃げようとしている悪いやつ。それが私の役だった。妻ではない、なんらかのただれた関係にある女性を伴って悪態をついている。いやなやつだ。
いやなやつだが、役としては、おいしい。
いい役である。
山城新伍?
草野大悟?
誰だろう。とにかくいい役である。
これが事前にスタッフに会っていればなにも疑うことはない。
だがこの役は当日、現地で初合流だった。