45本目・『悲しき口笛』
歌手、美空ひばりの初A面レコードにして初の大ヒット曲『悲しき口笛』。その曲を主題とした映画が本作『悲しき口笛』である。私が生まれる12年も前の映画なので当然なにも知らないと言えば知らないし記憶にもあるわけがない。
だが映画にしてもレコードにしても後々の世でこうして見ることができる。聞くことができる。ありがたいことだし、おもしろいことだ。
当時12歳の美空ひばりが演じるのは戦災孤児。まだ焼け跡だらけの町で美空ひばりは逞しく生きている。着の身着のまま。寝るのはドカンの中。歌が上手なので路上生活をしている家のない人たちに大人気。明るく生きている。その路上生活仲間のひとり、大坂志郎も明るくてたのしいおじさん。映画の終盤、大坂志郎をはじめとする路上生活者たちは立ち上がって巨悪をやっつける。背広きて気取って女性をてごめにしている連中をにっちもさっちもいかないと思われているであろう路上生活者たちがコテンパンにやっつける。胸がすく。ざまあみろである。
美空ひばりがよく歌っている歌を誰も知らない。それもそのはず、流行歌ではない。生き別れになった音楽家の兄の作った曲だ。それが表題にもなっている『悲しき口笛』である。
兄との巡りあい、涙なみだの巡りあいにこの曲が大きく作用する。
で、その兄を演じたのがのちの『怪奇大作戦』、科学捜査研究所すなわちSRI、その所長・的矢忠役で私にもおなじみの原保美である。
美空ひばりとは生き別れになっているのでツーショットになるのは巡りあえるラストと回想だけであるがそのそれぞれがたいへん印象的でやさしく、美しい。そう、怪奇大作戦のときには髭をはやしたりもしていたが若き原保美、たいへん美しい。これは若い女性にたいへん人気があったでしょうなー。で、美空ひばりと出番が別々ではあるが出番自体は美空ひばりよりも多いかもしれない。食うために悪の一味に加担していたが女性をてごめにしようとするやり口に嫌気がさし悪の一味から女性を連れて逃亡。その女性が戦災孤児の美空ひばりをひきとって育てていたこころやさしきひとである。なお、この女性は無銭飲食をした原保美も助けた過去がある。その過去ありきで原保美はこの女性を助けて逃亡するのであるがこころのやさしさこそが悪に打ち勝つのであるという家城巳代治監督の熱い気持ちと私は受け取った。