40本目・『仁義なき戦い』
今年で50周年である。
『仁義なき戦い』は1973年の1月に劇場公開された。
私が劇場で見たのはその翌年か翌々年。劇場公開作を3本まとめて低料金で見ることができる二番館で見た。いままでに見たことがないテイストではあった。登場人物の誰も信用できない。主人公すら怪しい。
が、実はちょうどその頃、テレビでもそんな作品が放送されていた。
『人造人間キカイダー』である。
1972年から1973年にかけて放送された。
主人公のジローを世に産んだのは世界のすべてを破壊しようとしている狂信的な組織であった。ジローは人造人間。アンドロイド。ヒト型ロボットである。狂信的な破壊集団の代表の命令と、内蔵された良心回路の狭間でジローは苦しむ。
アニメ番組『デビルマン』が放送されていたのも同時期である。
つまり、この時期、『仁義なき戦い』を見ている大人や青年もいれば『キカイダー』や『デビルマン』を見ている子供もいて、それらに共通するのは主人公の所属集団は恐怖的に恐ろしい、主人公から見れば相対的に悪の組織であった。いや、そのそれぞれが、主人公自身も揺れている。はっきりいえば自分自身のアイデンティティも信用ならない。
これらそれぞれがすべて、東映の作品である。
東映京都、東映大泉テレビプロ、東映動画。
もう50年になるのか。
『キカイダー』も『デビルマン』もオンタイムで見ていた。ビデオなんてものはまだなかったからね。で、いまは配信で見ている。『仁義なき戦い』に至ってはどんだけ原稿を書いたかわからない。少年期から今日まで、ずーっといっしょにいる。監督、文太さん、梅宮さん、松方さん、渡瀬さんはじめ出演者、スタッフ、関係者にもかなりお会いした。
いまから50年前のほうが世の中、まともだった。
不平等や問題は多かったろうがそれぞれが闘っていた。いまみたいにがまんしてなかったと思うね。いまはそこをがまんして流されて長いものに巻かれるどころか、巻かれることを望んでるやつらもいるからどうかしてる。いじめも過去最高らしいけどそりゃそうなるでしょう。SNSもなんでもかんでもいっちょ噛みして自分が善であることを証明するツールになろうとしている。そこには思考もなにもない。全体主義ですよ、言うなれば。
なにをもってまとも、というのも難しいので言い直すと、ストレスは少なかった。騙されてたまるかという雰囲気があったからね。内罰的ではあったと思うし、その影響だろうね。いま、俺も自分自身相当に内罰的な人間だし毎日揺れている。死にかける年齢になっても自信なんかまったくない。正しいとも善であるとも思わない。ま、しかたない。ただストレスは少ないと思うね。この先も生きているあいだはおおいに悩んで揺れていくつもりです。
出演/菅原文太、松方弘樹、田中邦衛、中村英子、渡瀬恒彦、伊吹吾郎、川地民夫、渚まゆみ、内田朝雄、三上真一郎、名和宏、曽根晴美、高宮敬二、高野真二、林彰太郎、中村錦司、野口貴史、大前均、志賀勝、西田良、国一太郎、平沢彰、藤沢徹夫、白川浩二郎、唐沢民賢、疋田泰盛、司裕介、前川良三、小峰一夫、木谷邦臣、奈辺悟、松本泰郎、藤長照夫、友金敏雄、宮城幸生、大城泰、岩尾正隆、片桐竜次、笹木俊志、福本清三、川谷拓三、小林千枝、小池朝雄(ナレーター)、金子信雄、木村俊恵、梅宮辰夫
企画/俊藤浩滋、日下部五朗
原作/飯干晃一
脚本/笠原和夫
音楽/津島利章
撮影/吉田貞次
照明/中山治雄
録音/溝口正義
美術/鈴木孝俊
助監督/清水彰
擬斗/上野隆三
監督/深作欣二
<隔週金曜日掲載>
画像/上記作品DVD
PROFILE:
杉作J太郎(すぎさく・じぇいたろう)
漫画家。愛媛県松山市出身。自身が局長を務める(男の墓場改め)狼の墓場プロダクション発行のメルマガ、現代芸術マガジンは週2回更新中。著書に『応答せよ巨大ロボット、ジェノバ』『杉作J太郎が考えたこと』など。
twitter:@OTOKONOHAKABA