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43本目・『ゴジラ×メカゴジラ』:杉作J太郎のDVDレンタル屋の棚に残したい100本の映画…連載72

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43本目・『ゴジラ×メカゴジラ』

晴天の八景島。

ゴジラが海からやってきて、ここにいま、上陸してきた。

たくさんの人が阿鼻叫喚、逃げている。

厳密に何人ぐらいが逃げていただろう。

十人や二十人でないのはもちろん、百人ぐらいではなかった。

これが『ゴジラ』だ。

これが『ゴジラ』の撮影だ。

ものごころついた頃からゴジラを映画館で見た。

ゴジラだけでなく東宝の特撮怪獣映画を見た。

見た夜は怖くて泣いていた。

夢もよく見た。

寝小便もしたのだろう。

私にとってゴジラの最も印象的な出演者は逃げる人々だった。

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なにより印象に残ったし、その場面が怖かった。

悲鳴をあげながら町全体が非難する。

荷物を持って、着の身着のままで走って逃げる。

大八車やリヤカーに家財道具を積んで逃げている人たちもいる。

私にとって『ゴジラ』の主役、とまでは言わないが、主役はゴジラだろうから。大切な、主役に匹敵する、影の主役、それは現れたゴジラから逃げる人々であった。

その主役のみなさんが八景島に到着した私の目の前にいた。そしてすでに演技を開始されていた。逃げていた。スタッフの号令のもと、ザーッと移動していた。

私の役はその逃げる皆さんたちの邪魔をする悪いやつ。車で逃げないようにと警察が勧告するなか、車で逃げている身勝手ややつ。それが私の役だった。

私の役、と思われる役、だった。

台本で読む限り、出番は短いが印象的な、おいしい役であった。

その役がなせ私に?

その疑問はまだ解決してない。

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たしかに東京乾電池系列の事務所を通して私に出演依頼があった。なのでいま、ここにいる。だが人間違いという可能性は残っていた。

そんな私をスタッフは出演者として遇してくれる。

衣裳を御願いします、と誘導されて着替えのロケバスに誘導された。衣裳に着替えた。ちょっとリッチな若作りの業界人風中年男。しばらくお待ちください、と言われてどこで待っていたのだろう。スタッフが迎えに来た。撮影です。監督から説明があります。そう言われた。ついに監督とご対面である。人間違いだったら決定的な瞬間が訪れる。

私はマイナス指向の強い人間である。

被害者意識も強い。

ものごとはたいてい悪いほうに考えてしまう。

このときも悪いほうにしか考えてなかった。

昨夜から。

だから眠れなかったのだ。

撮影がたのしみで眠れなかったのではない。

人間違いだったらどうしようという不安が私を眠らせなかったのだ。

来た。

ついにこの瞬間が来た。

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人間違いだったとして、違う人だから帰ってくださいということもないだろうとは考えていた。それならそれでしかたないから撮影はしましょう、ということになると考えていた。そのときは私も気持ちを切り替えて、精一杯頑張るつもりだった。

「監督、杉作さんです」

みたいなスタッフの声に監督が私を見た。

現場でたくさんの避難民やスタッフに支持を出していた監督が私を見た。

目が泳いだら人間違いだ。

泳ぐと思った。

そして冷たくなると思った。

困惑してスタッフに(誰だこの人)みたいな展開になると思った。

違った。

泳がなかった。

冷たくなかった。

あたたかった。

ぬくもりがあった。

次回、年内最後の入稿。『ゴジラ×メカゴジラ』編、完結です。つづく。

※本記事は以下記事の続きです。
連載70『ゴジラ×メカゴジラ』
連載71『ゴジラ×メカゴジラ』

『ゴジラ×メカゴジラ』(2002年/東宝)
出演/釈由美子、中尾彬、宅麻伸、六平直政、中村嘉葎雄、高杉亘、友井雄亮、谷原章介、中原丈雄、加納幸和、小野寺華那、森末慎二、萩尾みどり、上田耕一、白井晃、坂田雅彦、飯山弘章、久遠さやか、吹越満、渡辺哲、江藤潤、田中実、北原佐和子、杉作J太郎、柳沢慎吾、永島敏行、村田雄浩、藤山直美、水野久美、田中美里、松井秀喜
製作/富山省吾
エグゼクティブ・プロデューサー/森地貴秀
脚本/三村渉
撮影/岸本正広
美術/瀬下幸治
録音/斉藤禎一
照明/望月英樹
編集/普嶋信一
助監督/兼重淳
特殊技術/菊地雄一
特殊撮影/江口憲一
特殊美術/三池敏夫
音楽/大島ミチル
協力/防衛庁、陸上自衛隊、海上自衛隊、東京読売巨人軍
監督/手塚昌明

<隔週金曜日掲載>
画像/上記作品DVD

PROFILE:
杉作J太郎(すぎさく・じぇいたろう)
漫画家。愛媛県松山市出身。自身が局長を務める(男の墓場改め)狼の墓場プロダクション発行のメルマガ、現代芸術マガジンは週2回更新中。著書に『応答せよ巨大ロボット、ジェノバ』『杉作J太郎が考えたこと』など。
twitter:@OTOKONOHAKABA

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