52本目・『現代任侠史』その3
高倉健が店主の寿司屋である。従業員の寿司職人は南利章、田中邦衛、青木卓司。
田中邦衛はエロ本が好きである。あと喋ると唾がペッペッと口から飛び出すようで先輩の南利章はかなりキビシク注意している。かわいそうになるぐらいだが酢飯を作っている寿司桶の中に唾がペッペッと入っているようなので、ま、キビシクてもしかたないか。その田中邦衛がたいせつにしているエロ本を後輩の青木卓司はたまに隠れて読んでいるが田中邦衛はそれを黙認している。
そんな寿司屋の客、和服姿の笑福亭仁鶴師匠が数名の芸者衆をエスコートしている。なにたべてもいいよという言葉通りに高額な寿司を次々口に運ぶ芸者衆に囲まれて仁鶴師匠はタコとイカばかり食べていた、そして料金を払うことになりそれがかなりの高額であった。自分はタコとイカしか食べてないのにとうらめしく芸者衆を見る仁鶴師匠。
「家でカレー喰うて寝てたらよかった」
ぐちる師匠。師匠は当時、ボンカレーのテレビコマーシャルに出演していて大人気だったのだ。
その料金を聞いて青くなったのが集団就職とおぼしき学生三名を引率して上京した教師(と思います)の北村英三。財布の中を見ながら焦っている。その焦った、困った雰囲気に健さんは気が付いた。正規の料金、六千円ですと言いかけた田中邦衛を制して健さんは軽く明るく言った。
「ひとり二百五十円で千円になります!」
明るい顔になり恐縮する北村英三。
その日、客の中に週刊誌記者の梶芽衣子がいた。梶芽衣子の健さんを見る目にぽっと明かりが灯ったようだった。
後日、ふたりは近場の縁日に出かける。つきあってるわけでも気持ちを確認したわけでもない。ただ単に行きがかりで縁日をふたりで歩いている。夜である。たくさんの露店が出ている。いい雰囲気であった。そこに登場したのがエロ本の露店であった。どぎついエロ本がズラリと並んでいる。店主は鈴木康弘。健さんの視線はそのエロ本にロックオン! となりには美しく気高く清らかな梶芽衣子。映画的にはまったくの序盤だが俺は呼ぼう、クライマックスである、と! 以下次号。
※続きの記事は以下。
「『現代任侠史』その4」
「『現代任侠史』その5」
『現代任侠史』(1973年・東映京都)
企画/橋本慶一、日下部五朗、佐藤雅夫
脚本/橋本忍
撮影/古谷伸
照明/増田悦章
録音/溝口正義
美術/鈴木孝俊
助監督/皆川隆之
進行主任/俵坂孝宏
編集/宮本信太郎
擬斗/上野隆三
アームス・テクニカル・アドバイザー/トビー・門口、トビー・村添
音楽/木下忠司
監督/石井輝男
<隔週金曜日掲載>
画像/『現代任侠史』DVDパッケージ
PROFILE:
杉作J太郎(すぎさく・じぇいたろう)
漫画家。愛媛県松山市出身。自身が局長を務める(男の墓場改め)狼の墓場プロダクション発行のメルマガ、現代芸術マガジンは週2回更新中。著書に『応答せよ巨大ロボット、ジェノバ』『杉作J太郎が考えたこと』など。
twitter:@OTOKONOHAKABA