ヤバい人が多いロフト界隈
——大塚公平さん。
知らない人からしたら誰だって話だけど、元少年チャンピオン編集長であり、二階堂卓也というマカロニウエスタン映画の専門家でもある人物で。取材したのはここ(ルノアール新宿区役所横店)だったけど、歌舞伎町に甚平着用で現れて、取っ払いのギャラ片手に飲みに行くのとか、実に昭和の編集者だった。「最近は編集者にもオタクみたいなのが増えてよぉ〜」みたいなことばかり言ってるTHE昭和の人。著書『漫曲グラフィティ』もすごかったよね。チャンピオン黄金時代の話を書けばいいのに、梶原一騎がつのだじろう先生を脅したことで連載が終わった大山倍達の実録漫画『ゴッドハンド』の裏話から始まって、鴨川つばめの移籍で「腕を折ってこい」と言われた話とか、「なぜそこ?」って話ばかり書いてたから、そういう話を掘り下げてきました。
——京都まで取材に行った、岩見吉朗(久部緑郎)さん。
岩見さんも終わった後にメシをおごってくれて。ホルモン焼き屋だからソフト菜食のボクはかなり困って、ラーメン屋でいいのにとは思ったけど(笑)。ちなみに、岩見さんの担当編集で取材にも立ち会ってくれたのが、かつてボクが『小学三年生』で連載をやったら内容がヤバすぎて半年で終わり、編集長と編集が別のところに飛ばされた、その編集だったんだよね。要はボクと乙武君とかボクと野口健とかの無茶なマッチメイクをしていた編集者。それがのちに漫画の部署に移って、今では岩見さんと組んで『ラーメン発見伝』シリーズを手掛けているという。『ロッキン・オン』関係のひどい話とか面白かったけど、個人的には、マニック・ストリート・プリーチャーズの話が訊けて良かった。マニックスのリッチー・エドワーズを失踪まで追い込んだのはずっと岩見さんだと思っていて、その件を直撃したらひどいコメントが返ってきたのも含めて岩見さんですよ(笑)。いろんな方面で無責任な話をしているのがすごく良かった。『ラーメン発見伝』のラーメンハゲと「ほぼ同一人物だ!」ってことがわかります。
——続いて、純烈の酒井一圭さん。
ロフトプラスワンの店員からの一番の出世頭だよね。吉田豪とターザン山本のイベントの担当プロデューサーから紅白にいった人っていないからね(笑)。酒井さんのあまり知られてない歴史を語ってもらうっていう回。
——水木一郎の話も出てましたけど、取材したかったのでは?
そうだね。とにかく老人はちゃんと話を聞いておかないとと思う。その次に登場する平野悠さんも、インタビューの後、老人ホームに入って……。平野悠さんのデタラメさは本当に好きなんですよ。日本のロック界の重要な証人のはずなのに、ロックのことを知らなすぎる問題(笑)。
〈ごっしー(カメラマン。元『スパ写』編集)「じゃがたらはハードコアだっけ?(笑)」〉
そうそう。じゃがたらとか非常階段をハードコア・パンク扱いしたりするから、それは違いますよって指摘したら、「吉田豪は、そういうことを書くと、すぐ文句言ってくるんだよ。うるさいんだよ!」って。言うに決まってますよ!「スピッツとか最悪!」とか。スピッツにケンカ売る人いないですよ! っていう。
——スピッツはロフト側のバンドなんですか?
ライブもよくやってたし、ロフトのレーベルからCDを出してたんだけど、ハッキリ言ってそこまで敵視しなくてもいいグループ(笑)。ただ、そういう平野さんの無差別攻撃が本当にデタラメで面白い。
——バカにされまくりの平野さんですが、功績もある方なのでは?
バカにしてるわけじゃないし、ライブハウスという文化すらなかった時代にロフトを作り、さらにはトークライブハウスも作り、平野さんが切り開いた道というのは確実にあるんだけど、切り開いた後に平野さんはデタラメなことをやり続けるから、あまり功績が功績として認められない(笑)。あまりにもひどいから詳細はカットしてるけど、平野さんが海外でやったことなんかめちゃくちゃだもん。でも最高!
——同じくロフトの石崎典夫さん。
どこにニーズがあるんだというインタビューで、石崎さんが一番喜んでたね。「豪さん2ショット撮ってください!」って。でも、面白いよ。ボンヤリした知識でピースボートに乗って、ロフトに流れ着くのとか、ロフトに集まるのはこういう人材だっていうのもわかる。個人的には、放送作家時代の話が衝撃的だったよ。「女をグーで殴りたい」っていう企画が(笑)。
最近亡くなったコク宝有名人
——2011年収録の轟二郎さん。
轟さんもジャイアント吉田さんも、亡くなってるからこそ、こういうロングインタビューを本として残すことに意味があると思っていて。かなり貴重な証言ですよ。世代じゃない人には伝わらないだろうけど、轟さんはボクぐらいの世代にとってスターだったんだよ。かなりメディア露出も多かった轟さんがなぜテレビで見なくなったのか。それは、とんねるずと絡んでしくじったからではないかという噂の真相を聞く裏テーマもあって。実際、いろいろ掘り下げたら面白い人生でした。昭和のテレビのデタラメさもよくわかります。
——同年収録のジャイアント吉田さん。
これまたとんでもなく貴重な資料だよね。流れで言うと、ボクが『週刊ポスト』で代々木忠監督の映画が公開されるタイミングでインタビューを頼まれて、ヤクザ時代の話からたっぷり掘り下げたら、ドリフの話になったんだよね。いかりや長介がよくアフリカに行く特番をやってたのは現地に愛人がいるからって噂はあったんだけど、その話を振ったらあっさり肯定してくれた上に、いかりやさんがヨヨチューのAV現場にしょっちゅう遊びに来てはカラミを見てたり、海外に行く前には必ずヨヨチューの事務所に来てバイブを何本も持っていったりとか、すごい話を訊いて。だけど、これは原稿チェックで削られる可能性が高いなという危機感があったから、同時期にジャイアント吉田さんにインタビューをして、その話を振ることで原稿にするという戦いをしたのがこの回。そしたら案の定『ポスト』では削られて、こっちの会話は残ったという。それだけじゃなく、澤井健一さんの話から何まで、格闘技的にも貴重な話をしているよ。
——格闘技方面では有名だったんですか?
多少。でも、普通繋がらないよね、武道、ドリフ、催眠術って(笑)。それぞれのポイントでしか聞いてないインタビューが多い中、これを網羅しているのは唯一だと思う。
——会っておきたいけどなかなか会えない有名人はいますか?
井上順だの野末陳平なんだのいるけど、コアマガジンでは難しいだろうという気がしていて。だから、メジャー感のある人は『CONTINUE』とかのほうでやるのが正解なのかなって思ってる。北島三郎、鳥羽一郎とか、昭和の演歌歌手とか絶対面白いはずだしね。
——そういや鳥嶋和彦さんがNGだったのは残念でしたね。
本当は入れたかったけど、本人の意向に関しては何も言えないので。ボクが言えるのは、雑誌のバックナンバーを探しだして買うべき内容にはなってますってことだけ。全方位に対して、口の悪さ全開!
【前編記事「吉田豪が語る『シン・人間コク宝』あとがきインタビュー【前編】」はこちら】
構成/編集部
写真/『シン・人間コク宝』(コアマガジン)
初出/『実話BUNKAタブー』2023年7月号