しかも、施工段階では、清水建設が建設前に建築確認を取った申請図と、完成後に管理組合に渡した竣工図で、スリットの詳細図がすり替わっていたことも判明している。実際の工事では竣工図に記載があった耐震上必要なスリットが1割しか入っていない上、一部は図面と全く違う部材が使われていた始末だ。
耐震スリットの不備は補修工事などの早期の対応が求められるが、売り主はトラブルの解決を引き延ばそうとする傾向にある。というのも、この問題は1棟だけの話ではない。全国各地に同様の施工不良の疑いが眠る。物件の規模や欠陥の状況にもよるが、補修費は1棟あたり数千万円にも上るとみられるためだ。
欠陥が判明したとしても、時間が経過している場合には、請求しても時効により棄却されるケースも多い。住宅品質確保促進法(00年施行)の売り主の過失にかかわらず買い主に保証の責任が生じる「瑕疵(かし)担保責任」の期間は新築物件の引き渡しから10年だ。
20年の改正民法施行前に契約を締結した物件では20年で損害賠償請求権が消滅する(不法行為に基づく損害賠償請求権の除斥期間 724条)。なお、改正民法では「瑕疵担保責任」から「契約不適合責任」へと変わり、契約不適合責任では、買い主は不適合を知った時から1年以内にその旨を売主に通知すれば責任を追及できるとの規定に変更された(民法第566条)。
しかし「不適合を知った時から5年または引渡しの時から10年で請求権は消滅する」と規定されている(民法第166条)。 「1997年に宮城県仙台市で建てられた約40戸の分譲マンションでは、築18年目に大規模修繕を行おうとしたところ、耐震スリット未施工の箇所があるなど欠陥が見つかり、売り主側の中堅ゼネコンのナカノフドー建設は補修工事を行うも、また欠陥が見つかるという繰り返しでした。マンションの管理組合は交渉で解決することができなかったため、3年後の18年、地元の販売会社と設計士、建設したナカノフドー建設の3者を仙台地裁に民事提訴。民法の不法行為に基づく損害賠償として13億円超の支払いを求めたが、マンション欠陥工事の不法行為責任は20年が過ぎたので問わないとの仙台地裁が判決したケース(23年6月)もあります」(不動産ジャーナリスト)
冒頭で紹介したJR九州など3社が販売した築25年で丸ごと建て替えられたマンション「ベルヴィ香椎六番館(福岡市東区)」のケースでも引き渡し直後の2年目から欠陥マンションとしての交渉を行っている。引き渡しから20年の期限が迫っている欠陥マンションでは返答の来ない書面のやりとりや方針変更で時間だけを漫然と引き伸ばされてしまうのだ。