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泉谷しげるの描き下ろし漫画『ローリングサンダー』:ロマン優光連載343

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話を戻すが、『ローリングサンダー』はサイバーパンクに対する初期衝動めいたものが感じられる作品だ。この作品は泉谷が40年間温め続けてきた物語だという。サイバーパンクいう名前ができる前からギーガーやメビウスの絵に衝撃を受け、『マッドマックス』や『AKIRA』『ブレードランナー』を好んできたであろう泉谷が80年代中盤にサイバーパンクという言葉に出会い、「そうか、俺が好きなものはサイバーパンクっていうのか、俺もサイバーパンクをやるぞ!」という衝動に駆られたであろうことは想像できる。その時の衝動がコールドスリープされたかのように40年後にそのまま花開いたのである。ちょっと、すごいことだと思う。

バラエティ番組などでは傍若無人なキャラを「演じる」ことが多い泉谷だが、照れ屋なんだろうなというところが言動の端々からうかがえる。『ローリングサンダー』にも恋愛描写とかにそれを感じるし、次に現れた敵の名称が「人類の新しい敵(JAT)」だったり、身も蓋もないギャグが突然出てくることも多いが、あれもなんかの照れ隠しなのではないだろうか。

『攻殻機動隊』の名前を思いっきり出してくるところがあるが、『攻殻機動隊』に限らず、引用やオマージュ、作品に対する言及などの多い作品であり、それが素直な形で出されている。座頭市っぽい人の名前がザトウ・カツシンだったり、言わなくていいのについつい言っちゃうみたいなところも、そういうシャイな人柄のあらわれなのかなと感じた。

作品中にそこかしこに見られる引用・オマージュ部分に関しては、じっさいに読んで確かめてほしい。

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サイバーパンクに対する初期衝動と並んで強く感じるのは漫画に対する初期衝動だ。現代の商業漫画の文法から言ったらあり得ないことの多い作品であり、前述のとおり絵の描き方からして違っている。違っているのだけど、我々はこの感じを知っている。それは中学生の時に回ってくる、クラスの奴がノ-トに書いたおもしろい漫画のそれである。

ノートに鉛筆で書かれた中学生の考えつくかっこよさだけで構成された既存作品からのストレートな引用にあふれてジャンル間を何となく行き来してしまっている漫画。そう、『ローリングサンダー』はあれの一番おもしろいやつであり、あれが究極に進化したやつである。商業誌に載る漫画とは全く違う、オルタナティブな進化をとげたエンターテイメント作品であり、見たことがないタイプの作品である。よくこんな作品がだされたなと思うし、それは本当に喜ばしいことだ。

本来だったらこのような作品が商業出版されることはありえない。めちゃくちゃ面白いけれど、普通に持ち込んだらプロの漫画編集者に厳しくダメだしをされ、怒られることだろう。ミュージシャン・泉谷しげるという名前の力がなければ、このような大判の単行本で商業出版されることはなかったのであり、「泉谷さん、音楽活動を辞めないでくれて本当にありがとう」と言いたくなるが、これはあまりにも倒錯した発言だという自覚はある、それぐらい世に出た意義のある作品だと思う。

泉谷氏の娘さんとは彼女がプチミットというバンドをやっていた時に、お孫さんとは彼女がEvo Revoという地下アイドルをやっていた時にプンクボイで対バンしたことがあるのだが、泉谷氏本人の活動は自分の興味の領域から遠い人だと思ってきた。それがまさか『ローリングサンダー』でこんなに喜ぶことになるとは。世の中わからないものであるし、ミュージシャン・泉谷しげるといったことを意識せずに読んでも面白い作品というか、泉谷しげるという人を知っている人も知らない人も読んだ方がいい、知らない方が面白いかもしれない奇書であり、まぎれもない快作である。これといった特徴がメガネ以外にないテンド良くんとただただしょうもないマシンガン・カトーが本当に最高。

ローリングサンダーとはなんなのか? それは自分の目で確認してほしい。

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