33本目・『やくざ戦争 日本の首領』
1977年当時の超豪華出演者による実録(風)やくざ映画である。
凄まじく演技力及び存在感のある俳優が次から次に登場してくるのでたとえば現代。現代の若者が見てもそりゃあ知らない人だらけ、馴染みのない人だらけかもしれないが異様な迫力と異常なおもしろみの連続に物語を追うよりもその顔、動き、生態の虜になるのではないだろうか。
たとえば首領役の佐分利信。
ここまで大物感のある人はなかなかいない。声の出し方からしてただごとではない。相手に聞かそうとしていない。聞きたければ耳をすまして聞け、という感じだ。かといって小声ではない。しっかり聞こえてる。
鉄砲玉役の渡瀬恒彦。渡瀬さんを見たことがない人が見たら恐怖でしかないだろう。
温和でものわかりのいい雰囲気も漂わせながら冷酷な指令を出す鶴田浩二。その奥さんが市原悦子。市原悦子の演技はなにからなにまですべてが永久保存版級。この映画との相性がよかったのか、監督の演出がはまったのか。この映画に続く続編『日本の首領野望篇』の岸田今日子にもそれは言える。
その手先の攻撃マシーン、千葉真一&小林稔侍。奇しくも『新幹線大爆破』の運転士、副運転士コンビである。
捜査員の田中邦衛、麻薬の取引がされているかもしれないスナック店主の根岸一正、巨大企業社長の高橋昌也と番頭の西村晃、モモヒキ姿で発狂した鳥のように絶命する小池朝雄、フォークリフトの刑に処される金子信雄。もうやめておきます。きりがないし、知らない人にはなにがなんだか。でも見たら必ず伝わる。テレビドラマならひとり出てればそれで60分ぐらいもつクラスの演じ手がこれでもかこれでもかと登場してくるロイヤルランブル状態。
この交通整理をみごとに成し遂げたのがこの映画のスタッフ一同ということになる。
とくに中島貞夫監督の尽力、心労はただごとではなかったろう。
以前、ある女性から聞いた。
東映京都の仕事が厳しくてたいへんで、もう途中で辞めて東京に帰ろうか、と思っていた。その時。その映画の監督が家に招待してくれた。辞めたいんですという話をするために行ったそうだ。その監督はフランス料理を作って食べさせてくれたそうだ。とても美味しかったそうだ。その女性は最後までその映画の仕事を頑張れたそうだ。その監督が中島貞夫さんである。
ご冥福をお祈りします。
出演/鶴田浩二、菅原文太、松方弘樹、千葉真一、梅宮辰夫、高橋悦史、渡瀬恒彦、市原悦子、火野正平、絵夢、二宮さよ子、折原真紀、東恵美子、地井武男、尾藤イサオ、小林稔侍、矢吹二朗、橘真紀、志賀勝、小泉洋子、曽根晴美、北村英三、小田部通麿、根岸一正、林彰太郎、小峰隆司、白井滋郎、有川正治、野口貴史、風戸佑介、大木晤郎、岩尾正隆、広瀬義宣、成瀬正孝、福本清三、木谷邦臣、宮城幸生、中村錦司、ウィリー・ドーシー、友金敏雄、笹木俊志、松本泰郎、阿波地大輔、片桐竜次、奈辺悟、秋山勝俊、西田良、高並功、天津敏、神田隆、品川隆二、日下部五朗、俊藤浩滋、森山周一郎(ナレーター)、待田京介、高橋昌也、内田朝雄、小松方正、織本順吉、今井健二、田中邦衛、成田三樹夫、小池朝雄、金子信雄、西村晃、佐分利信
企画/俊藤浩滋、日下部五朗、松平乘道、田岡満
原作/飯干晃一(光文社刊)
脚本/高田宏治
撮影/増田敏雄
照明/増田悦章
録音/中山茂二
編集/堀池幸三
美術/井川徳道
助監督/藤原敏之
擬斗/上野隆三
音楽/黛敏郎、伊部晴美
演奏/東京交響楽団
監督/中島貞夫
<隔週金曜日掲載>
画像/上記作品 VHSジャケット
PROFILE:
杉作J太郎(すぎさく・じぇいたろう)
漫画家。愛媛県松山市出身。自身が局長を務める(男の墓場改め)狼の墓場プロダクション発行のメルマガ、現代芸術マガジンは週2回更新中。著書に『応答せよ巨大ロボット、ジェノバ』『杉作J太郎が考えたこと』など。
twitter:@OTOKONOHAKABA