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38本目・『祭りの準備』:杉作J太郎のDVDレンタル屋の棚に残したい100本の映画…連載65

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38本目・『祭りの準備』

 山と海がある四国の小さな町。自然も豊かで暮らしている人の表情は活き活きしている。

冒頭、タイトルが出るタイミングで舗装されてない道を走っているボンネットバス。絵の大きさも色も角度もなにもかもが素晴らしい。撮影部の気持ちと才を感じてしみじみする。

そう。

しみじみする。

すべてがしみじみする。こころに染みわたってくる。この町に行ったことがなくても、この人々に出会ってなくても、2時間弱の上映時間。このたった2時間のあいだに見ている私たちはしみじみとこの町で暮らす。感じる。旅である。いや、体験である。この時期のATG映画に多い現象だが見た者の人生の一部になる。

主人公を演じる江藤潤の俳優デビュー映画である。

この後、テレビ版『青春の門』など映画、テレビを問わず大人気となる。刑事もの『星空に撃て』の主演もやった。悩みながら成長する新人刑事であった。

『祭りの準備』という映画は本当におそろしいまでにリアルでドキュメントといってもいいほどの雰囲気で私たちを魅了する。

ちなみにここでいう祭りは縁日が出たり神輿が出たり踊りがあったりする祭りではない。

人生。

人生の準備を描いた物語である。

いや、物語ではない。

脚本家、中島丈博の過去である。

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もちろん脚色は随所にあるだろうがその出し入れが見事である。中島丈博は日本を代表する脚本家である。さすがという物語であり、また、演出の黒木和雄、そして脇の脇に至るまでの俳優部。松村禎三の音楽も、鈴木達夫の映像も、すべてが見事だ。

ミステリーではないが、なにを描き、なにが起きるか。それを明かすべきではないと思う。現在公開中の『Barbie』もそうだが物語の筋、そのものが未知の体験なのだ。知らない場所で知らない物語が展開されていく。

映画は旅であり体験であり肌があえば見た者の人生となりその旅の続きは自分のものとなる。

いま思えば。

私はこの映画を上京してすぐに名画座で見た。

私にとってこの映画は私の祭りの準備になった、私自身の祭りの準備であったのだ。

『祭りの準備』(1975年・綜映社、映画同人社、ATG)
出演/江藤潤、馬渕晴子、ハナ肇、浜村純、竹下景子、杉本美樹、桂木梨江、三戸部スエ、原知佐子、絵沢萌子、真山知子、石山雄大、湯沢勉、斉藤真、夏海千佳子、石津康彦、柿谷吉美(ミス中村)、森本レオ、芹明香、下馬二五七、阿藤海、犬塚弘、原田芳雄
監督/黒木和雄
原作・脚本/中島丈博
題字/中島敬朝
企画/多賀祥介
製作/大塚和、三浦波夫
撮影/鈴木達夫
音楽/松村禎三
美術/木村威夫、丸山裕司
照明/伴野功
録音/久保田幸雄
監督補/後藤幸一
助監督/石山昭信
現地協力/高知県、中村市、中村市商工会議所、中村市青年会議所

<隔週金曜日掲載>
画像/上記作品DVD

PROFILE:
杉作J太郎(すぎさく・じぇいたろう)
漫画家。愛媛県松山市出身。自身が局長を務める(男の墓場改め)狼の墓場プロダクション発行のメルマガ、現代芸術マガジンは週2回更新中。著書に『応答せよ巨大ロボット、ジェノバ』『杉作J太郎が考えたこと』など。
twitter:@OTOKONOHAKABA

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