貧乏っぷりが悲惨すぎるがゆえに人気の漫画は数多い。そんな我々の心を掴んで離さない貧乏描写で、特にとんでもないと思う漫画を3作品挙げてもらった。今回は植地毅さん。
PROFILE:
植地毅(うえち・たけし)
専門分野はジャンル映画、漫画、ゲーム、反体制音楽などボンクラ趣味全般の五十路売文家兼デザイン業。座右の銘は「橋のない川に橋をかけるのが男の仕事」。
X:@DEADANDBURIED5
名店なのに月給3万円
今月のお題は「貧乏マンガ」ということなので、筆者の研究分野であるグルメ漫画の中から、「貧しさ」を前面に押し出したタイトルを3本選出。一見すると貧乏と美食は相反する関係に思えるが、実際は節約術や清貧思想との相性が良く、知恵と工夫と低予算が絡み合ったグルメ漫画は意外と多い。
『華中華(ハナ・チャイナ)』(作・西ゆうじ/画・ひきの真二)は、一流の中華料理人を目指して横浜中華街屈指の名店「満点大飯店」で修行を積む主人公・中村華子が、関帝廟で出会った楊貴妃の幽霊から助言を受けながら、「中華の基本はチャーハン」という独自の理念で次々と創作チャーハンを作り出す、実践派グルメ漫画。名店なのに月給3万円という、労基まっしぐらの搾取と先輩からのイジメが横行する過酷な職場を抜け出し、近所の老夫婦が経営する町中華「上海亭」の厨房で、密かに日替わり特製チャーハンを500円(後に300円に値下げ)という激安価格で提供し、貧困層の心を鷲掴みにする。全19巻の長編だが、連載中の2013年に原作者の西ゆうじ先生が急逝したため、未完のまま終了したのが惜しまれる。