ドラゴンボールよりちゃんとしてる?
8月も終盤に差し掛かった現在、上映中の映画はどれも話題作。例えば『バービー』『君たちはどう生きるか』『しん次元!クレヨンしんちゃんTHE MOVIE 超能力大決戦 とべとべ手巻き寿司』など、昨今では珍しい、当たりの映画が集中した月となった。
その中に埋もれて、独特のオーラを放っている『SAND LAND』を紹介しよう。
原作は鳥山明の漫画。
『ドラゴンボール』の連載終了後に描かれた連載作で、全1巻。連載時期が『ドラゴンボール』『Dr.スランプ』という怪物漫画の次だったから、どうあがいてもイマイチな評価にならざるをえない悲劇の漫画だ。
私も連載当時に読んでいたが、内容を全く覚えていない。ご多分に漏れず、期待外れという印象を受けたのはたしか。しかし久々に映画として観たら、割と良かった。むしろ、毎回バトルシーンばかりでウンザリする『ドラゴンボール』より、ちゃんとした漫画なのでは?
映画のコピーには、「鳥山明を体感せよ!」とあるが、むしろ鳥山明〝らしさ〟を排除している作品のように思えた(戦車の描き込みが異常なのは〝らしさ〟ではある)。以下がその「鳥山明っぽくないポイント」である。
バトルシーンがあまりない!
毎年のように『ドラゴンボール』の映画が公開されているし、鳥山明の絵柄ってだけで、いつものバトルシーンばかりの映画なのだろうと思いそうになるが、あまりない。バトルシーン目的で行ったら肩透かしはくらうはず。
女性キャラがほぼ出てこない!
基本アニメは女性キャラを出して、弱者男性に媚びるのが当たり前。しかしこの『SAND LAND』では、女性キャラがほぼ皆無(モブキャラとして微妙に出るが一瞬だし)。鳥山明と言えば、女性キャラが可愛いことで知られるのに、その取り柄を放棄してるのだ!
フェミとかポリコレとかの考えが主流となった現代に、女性キャラの排除はなかなか大胆だ。まあ原作が2000年のものだし、逆張りとかでは全然ないのだが。ちょっと違うことをしたかっただけという可能性も。
主人公が老人!
ポスターや予告CMで、ピンク色の悪魔が目立っているが、こいつは主人公ではない。『君たちはどう生きるか』のアオサギ(鳥)みたいなもんである。
老人のラオが主人公。アニメで老人が主人公のものなんて、かつてあっただろうか。もし鳥山明以外だったら、「主人公が老人だなんて言語道断!」と会議で却下されていたはず。世界的に成功した者にしかできない、商業ベースを無視した自我の押し通しである。
文/秋ゲルゲ康