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漫画家・山本直樹はなぜ反表現規制論者に冷ややかなのか【前編】

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――うっすらとした男性嫌悪や性嫌悪を抱いている女性にとっては、性表現そのものが必要ないということもあるかもしれません。

山本 汚らわしいという人は、別に全然いいんじゃないですか。だってふざけた行為ですよね。人前では絶対に見せないものを、見せ合い、くっつけ合い。そんなふざけた行為で子どもができるって最高だよねって思うけども。人類も継続するって面白いじゃんって。僕らはこっちの棚でやってるから、カーテンを開けなければいいだけ。けど、表現の自由戦士は「カーテンをぶち破れ!」っていうし、もう一方は「カーテンの向こうを潰せ!」って。そんな不毛な言葉だけの議論を、ツイッター上でやってるだけなんじゃないの、と思う。

――そこに対して山本さんは、擦っているというか、挑発的なことを呟いている印象もあります。

山本 「左翼はエロを取り締まろうとしてる」みたいなバカなことを言っているツイッターを見て、時にはつい反応するわけですが。エロについての自分の自由は、とりあえず自分と自分の仲間で守るのが最初だし、世の中にはもっともっと苦しめられている自由がある。メディアが委縮して、自民党に不利なことがNHKのニュースで流れなかったりとか、そっちのほうがヤバいでしょっていう話です。関東大震災の朝鮮人虐殺を描いた短編映画を、都の施設である人権プラザで上映しようとしたら、都側が難色を示した件なんて、色々理屈をつけてはいるんだけど、要するには小池百合子への忖度ですよね。従軍慰安婦とか、南京事件とかに触れないほうがいいんじゃねぇの、みたいな「空気」が蔓延している。

――そんな状況で、表現規制についてだけ騒いでいる表現の自由戦士たちは、歪であると。

山本 そう。戦前の歴史とかが好きでよく読むんだけど、大正のエログロ大流行りの時から、数年で日本が変わっていく様子、どんどんと暗くなっていく時代の歴史は興味深いですよ。時代とともにダメなものは変わっていくんですよね。『チャタレイ夫人の恋人』がダメだったり、『四畳半襖の下張』がダメだったり。今のインターネットなんて、それでいったら禁止でしょう。だって検索したら性器が丸見えなわけだから。

――憲法が変えられるようになってしまうと、表現の自由どころではなく、そもそもの自由の根幹が変わってきてしまう?

山本 言論表現の自由と、性表現問題の自由は対なんです。攻められる時は一緒くたに攻められますからね。「表現の自由戦士」とか言われる人たちは、戦う相手を間違っているんじゃないか、ってことですよ。

後編記事『漫画家・山本直樹はなぜ反表現規制論者に冷ややかなのか【後編】』に続く

取材・構成/大泉りか
撮影/武馬怜子
初出/実話BUNKAタブー2023年2月号

PROFILE:
山本直樹(やまもと・なおき)
1960年生まれ。北海道出身。漫画家。1984年に「森山塔」名義で『ピンクハウス』よりデビュー。同年、「山本直樹」名義で『ジャストコミック』よりデビュー。1991年に『Blue』が初めて東京都青少年保護育成条例で有害コミック指定を受け、有害コミック論争の中心的存在となる。近著に『堀田』、『レッド』シリーズ、『分校の人たち』、『田舎』など。
twitter:@tsugeju

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