「やってみると意外と大丈夫」
――すごいタイミングでしたね。そしてちょうど先月末には、『定本 レッド 1969-1972』1巻が発売となりました。
山本 『レッド』は紙の本は、ほとんどの巻が品切れで、電子ではまだ読めるんだけど、ちょうど今年、あさま山荘事件から50周年なんですよ。だから太田出版の親しい編集者に出しましょうよ、と。
――『レッド』の企画は山本さん自身の発案なんですか。
山本 そうですね。当時の関係者たちの本が面白くて好きで。『レッド』に関して言うと、とにかく前半は楽しいんですよ。楽しく銀行強盗したり、楽しく機動隊と格闘したり。それが山にあがって、同志殺しが始まってから地獄になる。前半を楽しく描けば描くほど、後半の凄惨さが際立つんですよね。
――関係者からの感想とかって届いたりするんですか。
山本 拘置所にいる重信房子さんに誰かが差し入れしたらしくて、面会に行ったことがあるんですけど、「もっと楽しそうに描いて!」って言われました。実際に楽しかったんだって。
――『レッド』の連載が始まった当時は、どえらい連載が始まったと思いましたが、描くにあたっては相当大変だったのではないでしょうか。
山本 登場人物たちを実名にしようかとも考えたんだけど、さすがにそれは面倒くさいし、それ以外の固有名詞やセクト名なんかは黒塗り。あとはあさま山荘事件まで、ノークレームで突破しようと編集者と決めていたので、日付とかを全部ぼかしたりしましたね。結局、遺族からのクレームはなかったので、途中から黒塗りもやめたし、今回復刻する定本では、すべて黒塗りが取れてる。
――おお。それでは、定本はある意味で完全版というか、すでに手元に『レッド』を持っている人も買う価値がありますね。
山本 そうです。やってみると意外と大丈夫なんだよね。ジャンルに関係なく。大塚恭司さんってテレビのディレクターの方がいて、その人が演出した『演歌なアイツは夜ごと不条理(パンク)な夢を見る』っていうものすごい深夜ドラマがあったんです。オープニングで線路の上に肉片や臓物が散らばってるっていう。その大塚さんが脚本の松尾スズキさんと対談してて「意外とやってみるとなんとかなるんだよね」っていうことを言っていて、それを胸に刻んでます。
当記事は後編です。【前編記事「漫画家・山本直樹はなぜ反表現規制論者に冷ややかなのか【前編】」はこちら】
取材・構成/大泉りか
撮影/武馬怜子
初出/実話BUNKAタブー2023年2月号
PROFILE:
山本直樹(やまもと・なおき)
1960年生まれ。北海道出身。漫画家。1984年に「森山塔」名義で『ピンクハウス』よりデビュー。同年、「山本直樹」名義で『ジャストコミック』よりデビュー。1991年に『Blue』が初めて東京都青少年保護育成条例で有害コミック指定を受け、有害コミック論争の中心的存在となる。近著に『堀田』、『レッド』シリーズ、『分校の人たち』、『田舎』など。
twitter:@tsugeju