58本目・『0課の女 赤い手錠』その十二
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「『0課の女 赤い手錠』その11」
「『0課の女 赤い手錠』その11」
一年半ほど前、この連載でテレビドラマ『青春の甘き香り』がDVD化される、ということを書いた。私は深夜に見た。そして録画したがいままで見たという人に会ったことがなかった。荒木一郎の主題歌がすごくよく、私が見たのは二十歳をすこしすぎた頃で当時よくともだちや仕事先のひとたちと麻雀をしたがこの歌がよく口から出た。深夜の駅のコンコースを独り歩く時にもこのメロディーが口から口笛として出た。いいメロディだった。荒木一郎のけだるく、やるせない、投げ棄てるような歌い方も極まっていた。この物語のなかでこの曲は主人公たちが芸能界に挑戦するためになけなしの金を集めてむりやりレコーディングして売り出す。そして大ヒット曲となり年末の賞レースを争う。つまり物語のなかで大ヒットする曲をこの番組の音楽担当の荒木一郎は作らねばならなかったのだ。そしてみごとに作った!
私は自分がラジオ番組を四国松山南海放送で持つことになりこの曲を何度もかけた。付随してドラマの話もした。
反応がなかった。
いままでこのドラマに関してどこで誰と話しても反応がなかった。この連載に書いた時もだ。
それが先日。
なつかしい人から二十年ぶりぐらいに電話がかかってきた。なつかしさで声が高くなった。そして、なぜ突然電話がかかってきたのか、不思議に思った。
その人は言った。
「杉作さん『青春の甘き香り』の原稿を書いてましたよね」
あれ? なんだろう。
手探りしようにもとっかかりがないままぼんやり考えながら、
「はい」
と私は返事した。
その人は言った。
「ほんとうにテレビで放送されていましたか?」(この項、つづく)