社会インフラさえ整えば平均寿命に大差はない
――日本の平均寿命はこれまでずっと世界トップクラスを維持してきました。世界でもトップクラスの医療技術を維持していること。国民皆保険制度が整備され、安価で医療の恩恵を受けられること。寿命の長さはそれらのおかげと考えて良いのでしょうか?
「もはやそうは言えません。青天井にお金を注ぎ込まなくても、基本的な社会インフラさえ整えば、平均寿命が80歳を超えることがわかってきたんです。例えば韓国。高齢者自己負担率は現役と同じ3割~5割ですが、平均寿命は日本と0.5歳しか変わらない83.5歳です。また、コスタリカやチリのような中南米の中堅貧困国でも、平均寿命が80歳を超えています。高度な医療技術や国民皆保険制度が整備されていなくても、平均寿命にはあまり関係がありません。要は、周産期医療、ワクチン、抗生物質、都市衛生、栄養状態、基本外科といったインフラ医療が整えばいいんです。日本のように医療費を年50兆円かけなくても、人は生物として80歳まで生きられるということ。今や、寿命と科学がプラトー(進歩の足踏み)に達して医療と社会のあり方が問われているといえます」
高齢者人口が増えているのだから、それに従って医療費が鰻のぼりになるのはしかたがないと考えがちだ。しかし、高齢者自己負担率を現在の1割から韓国なみの3~5割とあげたとしても寿命は変わらないと計算が成り立ってしまうというのだ。
高齢者への無駄なバラマキ実態
――病気を未然に防ぐためという理由で高齢者はしょっちゅう町のクリニックに通っている印象があります。このような頻回受診も寿命の延長効果があると考えて良いんですよね?
「最近の研究では、高齢者の頻回受診に健康維持や寿命効果がないことがわかり始めています」
――窓口負担を引き上げれば、これまでのように頻繁に医者にかかれなくなると思うんですが、大丈夫なんですか? 受診控えが起こってしまったため、病気の発見が遅れ健康被害が出てしまったり、もっと言うと寿命が縮まったりする恐れはないんでしょうか?