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なぜ 『からくりサーカス』がトレンド入り?:ロマン優光連載310

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不必要に思えたエピソードは全て必要だった

しかし、それによって生じた長い長い時間がなければ、我々はラストであそこまで感動できただろうか。

長期連載作品は読者が記憶する名シーンが序盤に多くなりがち(マンネリ化、アイディアの枯渇、モチベーションの低下、経年による作者のパワー低下によって後半にいくほどトーンダウンしてしまうことが多いため)なのだが、『からくりサーカス』は終盤に行けば行くほど記憶に刻まれるような名シーンが増えていく作品である。

不必要に思えたエピソードも、不必要に思えたキャラクターも終盤において大きな物語の中で魅力を炸裂させる。

退場しなかったことでキャラクターは掘り下げられ、変化する機会をあたえられ、より魅力的になっていく。ジョージをあそこまで好きになれるなんて思っていた人間がいるだろうか。最終決戦での三牛親子の姿は作中屈指の名シーンのひとつであり、弱い人間が見せる一度だけの勇気に心が動かないものはいないのではないか。あれも彼らと過ごした長い時間があって初めて到達できるものだろう。アルレッキーノ、パンタローネ、コロンビーヌの最後だってそうだ。メインキャラ以外のキャラを掘り下げていくという無駄とも思える行為があって、物語の厚みが増し、終盤の爆発的な感動が生まれたのである。

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勝ちゃんハーレム編だって、グリポンくんを魅力的なキャラにしていく時間だったし、平馬というキャラが登場したことで涼子のキャラが生かされたし、勝と過ごす時間によってギイのコミカルな面や優しさが強調されキャラクターにさらに深みを与えることになった。

アプ・チャーさんやシルベストリの物語は最後のグリポンくんの優しい決意で結実する。

藤田先生は『うしおととら』の白面の者、『月光条例』のオオイミ、『双亡亭壊すべし』の坂巻泥努と水といったラスボスを哀しい存在として描くのが得意な人で、本作でもそれは発揮されているわけだが、ほんとに彼は哀しい人だと思う。それも長時間かけて彼とじっくりつきあったからこそ、深く感じるのだろう。

全ては無駄なものなどなかったということだ。

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