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PROFILE:
ロマン優光(ろまんゆうこう)
1972年生まれ。高知県出身。「ロマンポルシェ。」のディレイ担当。ソロのパンク・ロック・ユニット「プンクボイ」としても活動している。近著に『嘘みたいな本当の話はだいたい嘘』など。
X:@punkuboizz
地球上のあらゆる生物の中から厳選された16種
長期連載漫画が生まれる理由として大きなものはテーマを描き切るために長さを必要とする場合、人気があるからやめられない場合の2つだろう。どちらの理由で連載が長期化したにしろ、多くの作品で後半に行けば行くほど、読者が感じる面白さが減少していくという現象がみられる。
マンネリ化、アイディアの枯渇、モチベーションの低下、経年による作者のパワー低下、読者側の飽きといったものが理由だが、そういった中、終盤にいくほど面白くなっていった稀有な作品がある。藤田和日郎の『からくりサーカス』だ。個人的には名シーンの大半が終盤に集中していて、本当に珍しい例だと思う。
人気作であり、評価も高く、大好きな作品であるが冷静に考えると手放しに傑作とは言えない作品である。『双亡亭壊すべし』までの藤田和日郎は基本スロースターターであり、ストーリーが面白く転がり、キャラクターが走り出すまで非常に時間のかかるタイプの作家だった。その弱点が強く反映された作品であり、何度となくイキそうでイケない感覚を味わわされる。加藤鳴海退場までの流れなど、吾峠呼世晴や芥見下々なら1巻にも満たない話数で印象的に処理できるのではないだろうか。とにかく長いし、盛り上がりきらない展開が多い。退屈ですらあるときもある。
しかし、あの長い長い時の流れがなければ、我々は最後にあれだけ感動することができただろうか。〝最古の四人〟、三牛親子、阿紫花英良といった人たちと過ごしたあの時間があったからこそ生まれてくる重み。それによって、はじめて終盤の印象深いシーンの数々が成立するわけで、無駄であり欠点にしか思えなかった部分によって最高の瞬間が生まれるという本当に稀有な作品だと思う。
主軸にすえたストーリーがある作品は長期連載のための引き延ばしでグダグダになることが多いが、一定のルーティンの繰り返しで成立する日常系はそういった危険性がない。考えてみれば、『ゴルゴ13』『こちら葛飾区亀有公園前派出所』は殺し屋や不良警官の日常を描いた作品だ。新田たつおの『静かなるドン』もそういったタイプの作品の一つである。そして、この作品は、「天才・新田たつお」の長い余生そのものとしての意味合いのある作品である。
『怪人アッカーマン』から『満点ジャック』までの新田は、一部でカルト的人気を誇るマニアックなSFパロディと下世話なギャグが他の追随を許さない、狂気の天才漫画家だった。間違っても100巻以上続くような作品を描く漫画家ではなかった。そんな新田が作家としての方向性を変えた象徴的な作品が『静かなるドン』である。かつての160km/hの豪速球と奇想天外な魔球を武器としていた天才は凡庸な直球とたまに挟み込むヘロヘロのフォークを武器とする無事是名馬的な選手に生まれ変わることになった。