PROFILE:
斎藤幸平(さいとう・こうへい)
1987年生まれ。東京大学大学院総合文化研究科准教授。専門は経済思想、社会思想。著書『人新世の「資本論」』(集英社新書)は「新書大賞2021」を受賞。19言語に翻訳され世界的ベストセラーとなった。続編となる『人新世の「黙示録」』(集英社)を4月に刊行。
X:@koheisaito0131

左派のイメージを変えたい
――本誌で(不定期)連載中の箕輪厚介さんとは同じ高校で、サッカー部でツートップを組んでいたそうですね。
斎藤 そうですね。他の同級生には衆議院議員になった中村勇太がいて、彼とはバンドを組んでましたよ。
――ジャンルでいうと?
斎藤 パンク。聴いていたのは鉄アレイやDEATH SIDEとかですね。
――めちゃくちゃハードコア! エリート校のサッカー部員と、政治家家系の子息が聴く音楽じゃない(笑)。
斎藤 反体制的なメンタリティは、当時から持ってたのかな。中村勇太も大変なんですよ。彼が小学校の頃に父親(中村喜四郎/自民党や立憲民主党などで15期にわたり衆院議員を務めた)が逮捕されて、ファーストクラスで移動していたような世界からどん底に……。そこでの「ふざけんな! この社会!」みたいな気持ちをバンドにぶつけてた(笑)。
――見る目が変わるなあ。
斎藤 僕も「イラク戦争とかを見ていて、この世界はおかしいんじゃないか」という感覚があって、最初はそれを音楽で昇華してたんですけど、マルクスを読んで「これは資本主義が原因なんだ」と気がついて、そこからマルクスの研究に進むんですよね。世田谷で育って、教育も受けさせてもらえる恵まれた環境があったからこそ、自分が気づかずに他人の足を踏んづけてしまったこともあっただろうし、いまもあるでしょう。だからボンボンなりに、そういった状況を是正したり、良くするために自分の力を使いたいと思ったんです。
――ベストセラーになった『人新世の「資本論」』(以下、『資本論』)や、その続刊である『人新世の「黙示録」』(以下、『黙示録』)といった著書以外にも、『news23』や『サンデー・ジャポン』といったテレビ、そして『ReHacQ』のようなWEBメディアにも積極的に出られていますね。
斎藤 みなさん忙しいですから、私の本をわざわざ手に取ってくれる人ばかりではないんで、テレビやYouTubeを何気なく観ているときに、資本主義のおかしなところや、社会主義へのイメージが変わるようなきっかけを、僕が出演することで積極的に作らないといけないなと。特にWEBでは、自分の意見が届く人にだけ発信してもフィルターバブルで終わってしまう。それを突破して、自分とはスタンスや考え方が異なる場所にも出ていって、対話や議論をしたいと思っていますね。
――ご出演されてる『ReHacQ』は、リベラル側からはやや忌避されているようなイメージもありますが。
斎藤 一方で『ポリタス』のような左派的なメディアもあるし、好きなものを見たらいいと思います。私の場合は「立場の違う人と議論をする」というミッションがあるので、『ReHacQ』のようなメディアにも出るし、そこで真面目な話もすれば、酒を飲んでひろゆきさんや箕輪さんとも雑談もするわけで。それが現実の社会ですからね。「左派は人の話を聞かないで、自分の正義を押し付けてくる」みたいな、刷り込まれてるところもあると思うから、そういう場に出ることで、左派のイメージを変えたいんです。
大谷翔平に何百億も払うよりも
――斎藤さんはご自身を「左派」だとメディアでも明言されていますね。
斎藤 「左派」や「革新」を「リベラル」と言い換えて、そのイメージが悪くなってきたら、今度は「中道」みたいな言葉でどんどん薄めて、後退させるという悪循環に陥っているのが、左派の現状です。でも、例えばいまのアメリカで言えば、ニューヨーク市長のマムダニさんは自分を「民主社会主義者」だと言っているし、それをZ世代が応援している。アメリカの左派のインフルエンサーは当然トランプを批判するけど、同時にハリスやオバマのような民主党穏健派も批判していて、「社会主義が大事だ、復権すべき」だとアピールして、それに多くの若い世代が影響を受けている。僕自身も「左派」という言葉をみんながビビって使わないなら、それをあえて使っていこうと。
――キャッチフレーズとしてブルーオーシャンだと。
斎藤 まさしく。「左派」に新しい意味を加えていけば、「左派悪くないじゃん」「社会主義もいいよね」となるんじゃないかなと。それに「リベラル」の人は、資本主義の話をあまりしないんですよね。ジェンダーや差別のようなマイノリティの問題も当然大切だけど、同じように、マジョリティも資本主義の犠牲になっているんですよね。だからこそ、資本主義の批判をしっかりしていくことが、「左翼もいいことを言うね」と気がついてもらえる、一番手っ取り早い道なんじゃないかと思ってるんですよね。
――資本主義といえば、裸の女性が人間ピラミッドを組んで、その尻にシャンパンをかけながら「これが資本主義だ!」と叫ぶ男性インフルエンサーの行動が、SNSで話題になりました。これは斎藤さんが著書で仰っている「ブルシット消費」の可視化なのかなと。
斎藤 資本家や資本主義者こそ、「こんなものは資本主義じゃない。資本主義は私たちを火星に連れていってくれるような素晴らしいものだ」と怒るべきですよ。資本家は労働者を搾取する代わりに、ロボットや宇宙船のような技術に投資して、イノベーションを起こすわけで。だから電気自動車の発展から宇宙開発までやってるイーロン・マスクは、その意味では資本家だなと思う。だけど日本だとそういった志向を持つ資本家は少ないし、株や仮想通貨のようなマネーゲームばっかりじゃないですか。前澤(友作)さんだってECサイトを作っただけで、根本的な技術部分の開発はしてないし、資産の多くは株とかアートといったマネーゲームの結果でしょ。つまり実体経済や我々の生活そのものと関わりがないもので儲けて、資本主義の発展に必要なイノベーションを起こさない人が多いし、資本主義自体が「クソ化」している。そして結局、女体シャンパンタワーやってるわけで(笑)。
