【ケース3】りゅうちぇる氏への批判は差別か?
タレントのりゅうちぇる氏が、ぺこ氏と離婚した。結婚後しばらく経ってから、自分がトランス女性だと気づいたからだ。これに対し、SNSでは賛否両論がわきおこった。「奥さんがかわいそう」「LGBTを言い訳にしてぺこに家事育児すべて押し付け、自分は自由な独身ライフを謳歌している」「自分の子どもが欲しかったという安易な理由で女の子の人生を変えてしまった」など。しかし、修正LGBT理解増進法が可決すると、こうした投稿は差別となる。なぜなら何人も他人の性自認を否定してはならないからだ。
いま国会では、性同一性障害特例法が課している性別変更の要件を緩和する議論が、いつ始まってもおかしくない状態にある。現行法では、未成年の子がいないことを条件としているが、当事者からはこれを削除してほしいとの要望が出されているのだ。「子どもは父親が徐々に女性へと変化していく姿を見ているのでショックを受けることはない」というのが彼らの言い分だ。性別移行した夫からある日突然離婚届を突きつけられ、妻子が路頭に迷う――。妻の法的地位や子の福祉よりも、トランスジェンダーとしての権利が優先される社会の入り口に我々は立っているのかもしれない。
【ケース4】ゲイの代理出産利用を認めないことは差別か?
『おひとりさまの老後』シリーズが大ベストセラーになった社会学者の上野千鶴子氏が実は結婚していたというニュースに驚かれた人も多いだろう。社会学は「あの手この手」を使って結婚や家族を相対化してきたが、結局上野氏でさえ結婚引力に抗うことはできなかった。それは同性愛者も同じであり、同性婚を結婚制度に組み入れてほしいと願う一部の人たちの気持ちはよくわかる。しかし問題は、愛する2人の権利関係だけに終わらない点である。
同性婚の次に出てくる要求は、代理出産を享受する権利である。「自分たちだって血の繋がった子どもをもうけ、温かい家庭を築きたい」と思うのは自然なことだろう。2022年、自民党の生殖補助医療についてのプロジェクトチームは、先天的に子宮がない人などに対し、一定の条件下で代理出産を認めるべきだとする案をまとめた。無子宮であれば代理出産が認められるのなら、まさにゲイは無子宮であり、条件としては同じである。WHOがゲイやレズビアンに生殖医療を認めるロジックとして「彼らは不妊症」と述べたことを考えると、あながちぶっ飛んだ話でもないのだ。海外と同じように、わが国でもゲイの代理出産利用はいずれ認可されるに違いない。
だが代理出産は貧困女性が担うことが多く、フェミニストから大変な批判を受けているのも事実。あのウクライナが代理母ビジネスの一大産地だったことを知った上野氏は、NHKの番組『100分deフェミニズム』において「他人の体を使って自分の自由を追求するな」と怒り心頭に発した。
さて、修正LGBT理解増進法は代理出産についてどのようなジャッジを下すだろうか。差別をしているのは貧困女性を搾取しているゲイか、それともゲイが子どもを持つ権利を認めないフェミニストか。