公共事業としてのLGBT法
ここまで見てきたように利益相反は多岐に渡る。拙稿では触れなかったが、身体男性のトランス女性が女性スペースに入ることの是非や、女子競技に参加することの是非などもある。修正LGBT理解増進法は、「なんとかなるさ」と見切り発車していい代物ではないのだ。
ところで、左派LGBT活動家の本丸は別のところにあると指摘する向きもある。それがこの法案の中に位置付けられている「基本計画」だ。
例えば男女共同参画社会基本法は、条文に基づいて基本計画が策定され、全国の自治体が予算を付けてそれを執行していった。ハコモノである男女共同参画センターや女性センターが乱立し、行政フェミニストが多数誕生した。
修正LGBT理解増進法も同様の構造になっており、条文には基本計画の策定が義務付けられている。おそらく各県にLGBTセンターが作られ、多くのLGBT活動家が行政の仕事を担っていくことになると想像する。すでに水面下では、誰がセンター長になるのか、どの団体が教材のDVDを作るのか、小中学校への講師派遣は誰に頼むのかといったLGBT活動家たちによる綱引きが行われている。左派LGBT活動家は記者会見で「理解増進なんてあまりにも生ぬるい。作るのであれば差別禁止法」と言うが、LGBT理解増進法が通れば自民党側のLGBT活動家が主導権を握り、LGBT平等法が通れば野党側のLGBT活動家が主導権を握ることになるわけだから彼らも必死だ。どちらに決まるかで、自分たちに回ってくる補助金は雲泥の差となる。
2013年、筆者はアメリカ国務省に招聘されてLGBT研修に行ってきた。そこではどの州を訪れても立派なLGBTセンターのビルが立っていた。サンフランシスコにはLGBTの歴史資料館も建設されていた。ソドミー法などを通してLGBTへの虐待を行なってきた欧米の贖罪意識が根底にはあると感じた。歴史や文化の違うわが国において本当にこのような予算措置が必要なのか、国民の税金の使われ方を注視していかなくてはならないと思う。
「LGBTと向き合う」とは
2022年に始まった東京都パートナーシップ宣誓制度の事前調査では、自分の住む地域に同様の制度があっても活用しないと答えた当事者が8割を超えた。20年から始まった大阪府でさえ利用者は約300組しかおらず、LGBT人口1000万人から換算すると雀の涙だといっても過言ではない。同性愛者はポリガミー(※1対多数や多数対多数のパートナーシップ)的生活を送っている人が少なくない。15年成立の渋谷区パートナーシップ制度で旗を振っていたLGBT活動家の多くは、すでにその時のパートナーとは関係を解消している。
そうした中、ゲイの出会い系アプリでは、異性愛者の女性との友情結婚を斡旋する広告が流れている。ゲイ同士の流動的な関係に疲れた人たちが、性愛抜きの安定的関係を求め始めているのだ。しかもこれは経産省の補正予算で行われている事業である。このように同性愛者への法的保障のやり方は複数あるにも関わらず、あたかも同性婚しか選択肢がないかのような報道は、本当にLGBTと向き合っていると言えるだろうか。
首相秘書官の失言に乗じ、「与党の信頼回復」や「野党の実績」として法案を成立させるのではなく、「LGBTの中の多様性」にもっとスポットライトを当ててほしいと思う。
文/松浦大悟
初出/実話BUNKAタブー2023年5月号
PROFILE:
松浦大悟(まつうら・だいご)
1969年生まれ。神戸学院大学卒業後、秋田放送にアナウンサーとして入社。秋田放送を退社後、2007年の参院選で初当選。一期務める。自殺問題、いじめ問題、性的マイノリティの人権問題、少年法改正、児童買春児童ポルノ禁止法、アニメ悪影響論への批判、表現の自由問題などに取り組んだ。ゲイであることをカミングアウトしている。著書に『LGBTの不都合な真実 活動家の言葉を100%妄信するマスコミ報道は公共的か』(秀和システム)。