当然ながら、こういった歌声に魅力を感じるのは一部の好事家のものである。わかりやすく上手い歌に引かれるのが普通の感覚なのは言うまでもない。ただ、そういう「素」の歌声を生かすことは日本のアイドルポップスの魅力の一つであったわけで、その文化は残っていて欲しいとは個人的には思っているし、単純にそういうものが好きなのだ。
地下アイドル、インディーズ・アイドルが増え続ける現代では、楽曲自体の方向性が多岐にわたるようになり、いわゆる商業的なポップスとは違うものを演じるアイドルも存在するようになった。そういったアイドルの中で、今まで語ってきたようなアイドルの歌声の魅力が引き出されているものの一つが、〝みんなのこどもちゃん〟というグループだ。
ハードコア、ダークウェイブ、インダストリアルの影響が強いハードでラウドな音楽性の演奏をバックにしながらも、デスボイスやスクリームといった手法に逃げない、女の子の「素」の歌声が聴け、その低体温を感じさせる淡々としたテンションゆえに逆に強い情感が産まれている。彼女たちのファースト・アルバム『壁のない世界』はそういった観点からも一聴の価値があると思う。
今回、アイドルポップスにおける「歌声」に絞って考えてきたわけだが、いわゆる「歌の上手さ下手さ」とは関係ないアイドルの意図的な歌唱方や声の出し方や、歌い手ありきだからこそ音楽的に冒険できるといった話は、今回の話に関連性が高いとは思うものの別の機会に譲りたいと思う。
〈金曜連載〉
画像/みんなのこどもちゃん「壁のない世界」(2018年)通常版ジャケット
あのちゃんについて:ロマン優光連載145
地下アイドルの定義:ロマン優光連載258
自分の一番好きなアイドルはTIFに出てない:ロマン優光連載251
アイドル性とはなんなのか:ロマン優光連載115
PROFILE:
ロマン優光(ろまんゆうこう)
ロマンポルシェ。のディレイ担当。「プンクボイ」名義で、ハードコア活動も行っており、『蠅の王、ソドムの市、その他全て』(Less Than TV)が絶賛発売中。代表的な著書として、『日本人の99.9%はバカ』『間違ったサブカルで「マウンティング」してくるすべてのクズどもに』(コアマガジン刊)『音楽家残酷物語』(ひよこ書房刊)などがある。
twitter:@punkuboizz