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本当に美味しい店などごくわずか:適菜収連載7

連載
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男性が撮影をしており、若い女性が主に喋っている。

「六合夜市にやってきましたあ」「あっ、この店に入ってみよう」「めっちゃうまい」「すごく好き」「やさしい風味だよね」「トロっとしていて細麺に絡みつく」「スープうまっ」「からあげもうまい」……。

本気でそう思っているなら仕方がないし、価値観は人それぞれだとしか言い様がないが、自分を騙しているのなら、迷惑なのでやめてほしい。

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まずいものを食べてうまいという自己欺瞞のメカニズムは、おそらく次のようなものである。わざわざ遠くまでやってきて食べたものを否定すれば、その日の夜の時間を無駄にしたことになる。まずいと口に出せば、空気も気まずくなる。そこで特に旅先では何を食べても「美味しい、美味しい」と念仏のように繰り返す。

ユーチューブも参考にはなるが、信用はできない。本当に美味しいのは、まずいものをボロカスに否定する現地に住んでいる人が通っている店である。

 

写真/Wikipediaより(撮影/w:en:User:Henry M. Trotter)
初出/実話BUNKAタブー2024年2月号

自称保守による「日本スゴイ論」:適菜収連載6
「性加害」という言葉への違和感:適菜収連載5

PROFILE:
適菜収(てきな・おさむ)
1975年山梨県生まれ。作家。大衆社会論から政治論まで幅広く執筆活動を展開。『日本をダメにした新B層の研究』(K Kベストセラーズ)『ニッポンを蝕む全体主義』(祥伝社新書)など著書多数。

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