275回 『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』はもったいない
X(旧Twitter)のTLに流れてくる評判の良さに釣られて映画『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』を観てきたのだが、感想としては「もったいない」という言葉が浮かんできた。
もったいない。本当にもったいない。ゲゲ郎(鬼太郎の父。目玉おやじになる以前の姿)と水木のコンビの活躍が、これ以上見られないなんて…。
2人のバディ感が凄く良かったのだが、時系列の都合上、2人の活躍をこの物語以外に描くことは不可能! あのコンビの活躍がこれしかないなんて、本当にもったいない。
若干のネタバレを交えながら、なんとなく話していこうと思うのだが、ネタバレが気になる人は気をつけてください。
今作での水木は『墓場鬼太郎』(原作・アニメ)に出てくる水木とも原作者・水木しげるとも違う独自のキャラクター。職業やラストで暗示されている大まかな今後の物語の流れは墓場・水木を踏襲しているが、一方で『総員玉砕せよ!』や『のんのんばあとオレ』といった水木しげるの自伝的要素の強い作品から来歴が引用されており、経歴的には両者のキメラである。
容姿は墓場・水木とも作者・水木ともかけ離れており、劇中では40年代から60年代に活躍した二枚目俳優の代名詞として知られる佐田啓二(中井貴惠、中井貴一姉弟の実父である)に似ていると言われているが、顔や体に残される傷は作者・水木の失われた左腕と意味を同じくしている。
性格的には凡庸な小市民であった墓場・水木とは似ても似つかないし、作者・水木のおおらかすぎる風情ともほど遠い。過酷な戦場、兵卒に玉砕を命じながら自分は生き残ろうとする卑劣な上官、周囲の人間に財産を騙しとられるといったハードな体験(どれも作者・水木の実際の軽減だ)から、生き残るために強くならなければならないという思いや様々なものに対する不信感が見てとれ、恋愛感にもそれは影を落としている。野心家であり、他人を利用してでも出世するような功利的な人物であろうとしているが、どこか非情になりきれない。