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柴田英里寄稿 フェミニズムにとって性行為や性表現は忌むべき存在なのか

フェミニズムイメージ 社会
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目立たない性産業への肯定論

フェミニズムにとって問題となる性的「行動」は、第一に女性自身の健康と生活に関するものであった。妊娠・出産を国家的に保護することで社会的価値を高めるか、社会進出のボトルネックと考えるかという問題は、現代でも女性の社会進出と少子化という形に変わり続いている。中絶や避妊は、女性自身の健康と選択の問題を超え、フェミニズム内部からも「優生思想」と批判されることがあった。

売春防止法制定の背景にはキリスト教的性道徳や性産業従事者への蔑視があり、この問題もまた、困難女性支援法やAV新法などをめぐり現代まで続いている。売春を含む性産業の是非に関して、とりわけ第三波以降は、性産業を「労働」として捉え、労働環境改善や合法化を求めるフェミニストもいる。

法倫理の実務家であるキャサリン・マッキノンの提唱したセクシャル・ハラスメントやDV被害防止の法倫理が日本においても法や条例の立案・制定に影響を与えたことに対して、セックスポジティブフェミニストの言論の影響力は少ない。

フェミニズムにとって問題となる性的「表現物」は、マス・メディアの発展とともに出現した。第二波以降、一貫して「(ステレオタイプな)性役割」と「容姿・性的メッセージ」が問題視されている。国連女性機関UN Womenといった国際的な組織が表現物による影響を過大視し、社会正義と経済活動の統合を重視する一方で、メディアの媒介性、様々な状況下の主体によるテクストの消費プロセスに着目する1980年代以降のメディア研究の視点は少ない。

AVは、制作過程において性行為などの性的「行動」を伴うが、流通・販売される過程で性的「表現物」となる。制作段階で強要などの被害が発生した場合、賠償や販売・流通停止を求めることは正当な権利であるが、強要もなく、自らその仕事を選んだ女優の作品まで「女性の人権侵害」として扱うのは、実在する女優の自己決定より、恣意的に一元化された「女性」という集団の価値観を優先することである。

女性消費者のためのポルノ制作などを求めるフェミニストもいるが、法による「禁止」の効果を問題視する傾向も強く、法制化を目指す活動が少ないため、「禁止」を求める言論より目立ちにくいのである。

文/柴田英里
写真/photoAC
初出:実話BUNKA超タブー2023年5月号

PROFILE:
柴田英里(しばた・えり)
1984年生まれ。東京藝術大学大学院美術研究科彫刻領域修士課程修了。現代美術家(彫刻中心)・文筆家。著書に『欲望会議「超」ポリコレ宣言』(千葉雅也、二村ヒトシとの共著。角川書店刊)。
twitter:@erishibata

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