PR
PR

『花束みたいな恋をした』を見て:ロマン優光連載200【2021年11月26日記事の再掲載】

連載
連載
PR
PR

魅力的な作品であると同時に、観る人によって全く違った光景が見えてくる不思議な映画でもある。ある人にとっては素敵な悲恋を描いたラブストーリーだし、ある人にとってはまぬけな若者たちの滑稽な失敗を描いたコメディであり、ある人にとっては何事にもあさはかな若者たちの愚かな恋愛を描いた残酷ショーでもある。見る人の年齢や恋愛経験による部分もあるが、作品中の二人が好む文化を表現するために選択されたものの絶妙さや、それに対する二人の接し方に対してどのように感じるかによって、受けとる印象が変わってしまう部分が大きい。

劇中、二人が付き合うきっかけになったのはアニメ・映画監督の押井守氏(そのシーンのためだけに本人が出演している)なのだけど、まずその人物が押井守なのが絶妙なセレクトだ。大メジャーではないがそれなりに世間的知名度がありマニアックすぎず、二人の趣味嗜好をわかりやすく伝えるのにぴったりの人物だ。そして、押井守を見たあとの二人の発言の微妙さや浅さもまた絶妙なのだ。

PR

あの喫茶店のシーンは本当によくできている。初対面の人と行う会話の中で「神」というネットの言葉を使う事の痛々しさ。作品名ではなく犬と立ち食いそばが好きな人という説明をしてしまうズレた感じ。その説明のネットに書いてあったことをそのまま言ってるだけのような薄っぺらい感じ。それなのに『ショーシャンクの空に』が好きな人間や実写版『魔女の宅急便』を見に行く人物に対して侮蔑心を露にする勘違いした特権意識。麦くんがどういう若者なのかを伝える上で重要なシーンだ。

「マニアック」な趣味を持った会話でのコミュニケーションが苦手な若者。そこは観る人が共通して得る印象だろう。

タイトルとURLをコピーしました