最初のフロアの出口にはユベール・ロベールの「モンテ・カヴァッロの巨像と聖堂の見える空想のローマ景観」があって、以前はもう一枚対になっている絵があったのだが、最近は見当たらない。ある意味ではどうでもいい絵だが、昔は毎回「ユベール・ロベールだっけ? ロベール・ユベールだっけ?」とそこを通るたびに感じていたので、その記憶も毎回蘇る。
次のフロアに入ると、絵の具の強いにおいがする。ここから近代絵画がメインとなる。ウジェーヌ・ドラクロワ、ギュスターヴ・クールベ、ポール・セザンヌ……。その先のフロアは以前はモネの絵だけがある贅沢すぎる部屋だったが、今はウジェーヌ・ブーダンなどの絵も紛れ込んでいる。真ん中に座る場所があるので、そこに座って、毎回「ここでワインを飲んで料理を食べたい」と思う。昔から成長していない。
階段を降りると、ポール・ゴーガンの絵があるフロアがある。ゴーガンに関しても反発を買いそうなので黙っておく。絵の話は難しい。抽象画のコーナーはあまり興味がないので、たいていパス。
そして常設展の出口付近にあるジョルジュ・ルオーの「道化師」を見て、締めるという流れ。「道化師」がある位置は、昔から変わっていない気がする。そして、毎回、「今日、感じたことはいつもと同じだな」「人間は進化しないな」「まあ、それでもいいや」と思う。狂った世の中において、なんとか発狂を逃れているのも、こうした絵のおかげだと思う。
写真/Wikipediaより(撮影/663highland)
初出/実話BUNKAタブー2024年3月号
自称保守による「日本スゴイ論」:適菜収連載6
「性加害」という言葉への違和感:適菜収連載5
PROFILE:
適菜収(てきな・おさむ)
1975年山梨県生まれ。作家。大衆社会論から政治論まで幅広く執筆活動を展開。『日本をダメにした新B層の研究』(K Kベストセラーズ)『ニッポンを蝕む全体主義』(祥伝社新書)など著書多数。