PR
PR

NetflixのWebドラマ 『サンクチュアリ -聖域-』が面白かった:ロマン優光連載239

NetflixのWebドラマ 『サンクチュアリ -聖域-』が面白かった:ロマン優光連載239 連載
連載
PR
PR

ピエール瀧がいい

そんな現実世界の相撲とは別に漫画を中心に育まれてきた相撲フィクションの系譜がある。『のたり松太郎』(ちばてつや)『うっちゃれ五所瓦』(なかいま強)『ああ播磨灘』(さだやす圭)『火ノ丸相撲』(川田)。型破りの主人公が相撲の伝統を実力でぶっ飛ばしていったり、純に肯定し、その観客がやくざを肯定するものではないように、フィクションの中の相撲はあくまでフィクションであり、それが単純に相撲界の諸問題を肯定するものではないのは言うまでもないことだ。

Netflixが日本で製作したオリジナルWebドラマ 『サンクチュアリ -聖域-』は相撲を題材とした珍しいドラマであり、本当に面白い作品だ。

北九州の土着的な不良少年・ 小瀬清/猿桜が大相撲の世界に飛び込み、型破りな大暴れをする。あらすじを簡単に説明すると、そんな感じだ。一部の漫画好きにわかりやすく言うと、『ドンケツ』(たーし)の世界からやってきた男が大相撲の世界でめちゃくちゃやるけどだんだん大人になる話である。

この作品での相撲は現実のそれというよりは、漫画の中の相撲の世界観に非常に近い。いうならば、実写で描かれた相撲漫画である。名横綱の新興宗教帰依、かっての名力士と息子の軋轢といった現実の相撲界の出来事を思わせる事柄も散りばめられているが、それは作品の中での大相撲という世界の異常性を表すための味付け程度。星の貸し借り、八百長といった言葉も出てくるが、基本的にこの世界での相撲は神事的な色彩を背負った格闘技である。かわいがり、女人禁制といった現実世界の因習も登場するが、そういった問題をどうこうする社会派の物語ではなく、角界の異界性をわかりやすく表すために採用されている要素で、そういう異常な相撲の世界に金目的で飛び込んだ破天荒な主人公が大暴れし、やがて相撲を愛するようになり成長を遂げるという伝統的なスポーツ漫画のセオリーに乗っ取ったものだ。

力士役の俳優の演技は誰もが魅力的で引き付けられるし、相撲に関する物語は本当に面白い。猿桜が無法の陰に父・浩二(キタロウ)に対する想い(借金でつぶれた父の寿司屋を取り戻すために貯金をしている)があったり、ひたすら人の良い父をないがしろにする奔放な母・早苗(余貴美子)の行状に苦しんでいたり、自分勝手で乱暴で、すぐに調子にのったりするところはあるが、本質的にはいい奴なのも物語上見る人の感情移入を誘うところだと思う。また、理不尽で残酷、陰湿なかわいがりシーンがあるが、猿桜がそれに心が折れることなく、やりかえすのがいい。舞台となるのが一般社会と隔絶した異常な価値観の社会であることを見せるのに、かわいがり描写は効果的だが、単に一方的な暴行だと不快感が先にたつので、猿桜の不屈の精神が目立つ描写になっているのがいいのだ。ただ、嫌がらせが本当に陰湿すぎて、かわいがりをメインにやって行っていた兄弟子・猿河が後に仲間然としてきても、個人的にはもやもやしてしまった。あと、早苗の浩二に対する虐待もえげつなさすぎ!

力士以外を演じるベテラン俳優勢もいい感じだが、特にピエール瀧氏の猿将親方がすごくいい。やっぱり瀧さんはいいですね。それと、松尾スズキ氏演じる犬嶋親方が本当に憎たらしい。現役時代に綱取りを阻まれた恨みを猿将親方に持ち、ことあるごとに理不尽に嫌がらせ・妨害をしてくるのだが、本当に腹立たしくなる。道で松尾氏を見かけても「犬嶋の野郎、なんて汚い奴なんだ! 許さん!」と言ってしまいそうになるくらいの不快っぷりだ!あと、笹野高史氏演じる龍谷部屋のタニマチ伊東さん怖すぎです。

猿桜、ライバルである最強力士・静内、角界の名門の御曹司であるエリート力士・ 龍貴の次代を担う若手力士3人はそれぞれの親との関係性の中で苦しんでいるのだが、それもそれぞれの個性を際立たせている。静内役の住洋樹氏は元大相撲力士で演技のプロではないわけだが、台詞を言わさないことで逆に静内の怪物性や孤独、悲哀が浮き彫りになっていく。

取り組みシーンや稽古シーンの迫力、特に猿桜VS静内の最初の取り組みは怖すぎるくらいだ。元力士の人たちはさておき、力士役の俳優たちの肉体はトレーナーの指導にそって1年をかけて本物の力士のように肉体改造されていて素人目には力士としてリアリティがある肉体に見える。以前から上半身を露出する役柄が多かったことから撮影前の体型を比較しやすい主役の一ノ瀬ワタル氏の肉体を見ると、以前の格闘家的な鍛えられた筋肉が目立つ肉体から、筋肉の上に厚い脂肪(特に腹部)がのった力士然とした肉体に変わったのがよくわかる。撮影後はまた指導のもとに通常の体型に戻していったという話だが、続編を撮るのは、肉体改造の期間を含めて2年くらいかかるので実現が難しいかもしれないのは残念だ。

本当に魅力的な作品だが、 帰国子女で先進的なジェンダー意識・社会意識を持つヒロイン・国嶋飛鳥(忽那汐里)や、ナルシストの兄弟子・猿岳の熱烈すぎる(おそらくゲイであろう)男性ファン、早苗の恋人の黒人男性の描写が古い感じのステレオタイプすぎるきらいがある。男性2人に関しては属性自体が面白いというように扱われているとも個人的には感じてしまった(ある属性を持つ人がコメディリリーフとして活躍するのと、その属性自体が面白いものみたいに提示されるのは違うことだ)。国嶋さんにいたっては物語が進むにつれ、過去の不倫話が出てきたり、男のくせに女にそんなことを言わすなとかいいだしたり、猿桜の彼女・七海と恋愛感情が絡んでるような感情的な口喧嘩(先に喧嘩を売られたせいではあるが)をしたり、なんだか90年代トレンディドラマに出てくる自分の気持ちに素直になれない高学歴のキャリア・ウーマンみたいになっていき、当初のキャラから考えても何かそぐわないし、古くさすぎでは。

そういった面とは別に、七海の様々な行動が物語中で説明がなされずに終わったのも気になる。暗い過去が暗示されていたりするのに伏線は回収されないし、何であんなことをやったのかわからないことが多すぎる。

しかし、こういった部分は本筋の相撲をめぐる物語とは関係のない部分であり、面白さを大きく損ねるものではない。だからこそ、こういったノイズになるところをいれるくらいなら、もっと力士のことをやってほしかったのはある。もっと力士と相撲の物語が見たかった。ほんと、力士・相撲パートは最高。

タイトルとURLをコピーしました