90年代のサブカル好き、マニアックな音楽好きの人たちには自明のこととされているが、そういった知識のない人には知られていないようなこと(『ロッキンオン・ジャパン』のインタビューはどういったものかといったことなど)を大筋でわかりやすく説明している点も良い部分であろう。著者である中原一歩氏自体がそう言ったカルチャーに対して門外漢でありわからないことも多く、一から調べていくしかなかったことが良いように働いたのだと思う。
いじめの重要人物
ただ残念なのは、本来であれば検証に不可欠と思われる重要人物への取材が実現していないことだ。山崎氏。『クイック・ジャパン』の記事を担当した村上清氏。『クイック・ジャパン』の記事中に「沢田」(障害を持っていることが明記されている)「村田」という仮名で登場する、いじめ被害者とされる二人。『クイック・ジャパン』の記事中で語られる、修学旅行の際に「村田」にバックドロップをかけ、全裸でグルグル巻きにして自慰行為を強要したとされる『小山田圭吾 炎上の「嘘」 東京五輪騒動の知られざる真相』内では「渋カジ」と呼ばれている人物。小山田氏が中原氏のインタビューで語っていた小学生時代の「犬糞を自分から口に入れてしまった少年」のエピソードに関する人物。
「沢田」「村田」の二人は連絡がとれなかったため、山崎・村上・「渋カジ」は先方に断られたために取材が実現していない。これは中原氏に責任があるわけではないが。「犬糞」の少年関連は特に記載がない。
村上氏はweb上で当時のことについて詳細な発言をしており、本人的には話せることはすべて話したとして断ったということだ。炎上当時、憔悴しきった村上氏を目撃したという話を聞いたことがある。彼については説明責任を果たしていると私は考えているし、メンタル的に取材に耐えられる状態でなかったのだと思われるが、取材という双方向のやり取りの中でさらに記事の背景が明らかになることはあっただろう。
「渋カジ」氏が出てこないのはわかる。「犬糞」の少年のエピソードの人物を特定したり、事実確認をするのは時代が古すぎて難しいだろう。
山崎氏に関しては以前出された声明でも詳細はなく、記事というものはそれを出した出版社・編集者・ライターに責任があるにもかかわらず、小山田氏を矢面に立たせるばかりで、編集者・ライターである彼が公で説明をしないのはどうかと思う。それがたとえ小山田氏の見解とぶつかるものであっても発言すべきなのではないか。