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奇書 田中雄二『AKB48とニッポンのロック ~秋元康アイドルビジネス論』を読んで:ロマン優光連載111【2018年06月15日記事の再掲載】

連載
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宍戸留美と桃井はるこというアイドル活動の年代や出自や活動に明らかな違いがある二人を「声優をしている」という一点で新世代アイドルとして括るのはあまりに乱暴である(324p)。インディーズ・アイドルの系譜について語りたかったのだろうとも思われるが、あまりに乱暴で何を語りたいのかよくわからない。アイドル以降、職業声優として活動していた宍戸と、多岐に渡る「ももーい活動」の一つとして声優もやってきたアキバカルチャーの推進者である桃井ではスタンスが違いすぎはしないだろうか。さらにそこから、アニメとアイドルのファンは別だったが、国際的なアニメブームによって秋葉原を中心にアイドルという存在が再び息を吹き返したという説に繋げられても理解に苦しむ。論旨が繋がってないのだ。二次元オタクの街・秋葉原。AKB発祥の地としての秋葉原。フリーランス・アイドルをやっていた宍戸。アキバカルチャーの申し子でDIY要素の強い活動をしてきた桃井。最近のアイドルブーム。それらの情報を強引に結びつけた結果ではないかと推測される。国際的なアニメブームによって三次元のアイドルの復権がなされたというのは全く謎の主張である。

このように、個々の資料は持っていても適切に扱えない結果、間違えた事実を導きだしたり、意味不明の結論を導きだしたりしている部分が他にも存在する。それらについては、ある程度以上の知識を私が対象に対してもっているため指摘できるのだが、自分の知識が足りないため明確に指摘できない部分でも奇妙に感じる箇所が何ヵ所もあり、その対象に詳しい人が見れば一目瞭然なのではないかと推測される。また、知識が足りないため一見正しい記述に見えるところも、原典にあたってみると間違っている可能性もある。資料の取り扱いについては色々と疑問が残る。

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大江慎也は薬物中毒だった?

単なる間違いも多い。324pに秋葉原ディアステージ、AKIBAカルチャーズZONEを新しい催事スペースとし、かつての池袋サンシャインシティの噴水広場に代わる、アイドルイベントのメッカとなったとする記述がある。ディアステはメイド喫茶の進化系的な店舗であり、 AKIBAカルチャーズZONEは単なるビル名であるのでAKIBAカルチャーズ劇場のことを言いたいのだと思うが、どちらも催事スペースではない。アイドルイベントにおけるサンシャインシティの噴水広場の意味合いは現在においても変わっているとは考えられず、それに変わる催事スペースが存在するとも思えない。カルチャーズ劇場とAKB劇場を対比して論ずるなら理解できるが、それ以前に事実を把握できてない。

ミュージシャンの大江慎也氏が薬物中毒で入院していたと読み取れる記述もある(407p)。私はこういう事実を聞いたことがなく、私が知ってるのは精神的な病で氏が入院したことがあるということだ。もし、この記述が虚偽のものであれば名誉毀損の疑いもあるので、出版社及び著者は早急に訂正、謝罪をする必要があるのではないだろうか。

現在の秋葉原のドン・キホーテ及びAKB劇場があるビルは、2002年から2004年の間、LAOXによって総合エンタテイメントビル『アソビットシティ』として経営されていたのだが、著者によると売上不振で閉店したとある(307p)。実際のところ『アソビットシティ』は秋葉原内のLAOXの店舗に分散して移転した後に万世橋近くのビルに統合されて2017年まで存在していたのだが、閉店か移転かという解釈は人によって違うと思われるので深く追求しない。テナントとして入っていたが、ビルのオーナーであるミナミ電気がビルを売却したため、移転したというのがLAOXの公式見解であり、一般的な認識である。しかし、著者は売上不振が原因とする。根拠はわからない。ところで、著者自身があのビルをドン・キホーテの子会社・日本商業施設の所有する物件と書いてある。ドン・キホーテをあの場所に開店するためにビルを買い取った可能性を感じはしないだろうか。また、売上不振が原因なら、『アソビットシティ』を移転してから10年以上も続けないし、一時期各地に新しい『アソビットシティ』の店舗を増やしたりということもなかったと思うのだが。ちなみに秋葉原の『アソビットシティ』は、長い歴史の末、2017年に売上不振で閉店している。

AKB以外の他のアイドルに関する記述は基本的に雑である。『田代まさしのパラダイスGoGo!!』(’89’90)と『アイドル共和国』(’91’94)をほぼ同じころに始まったとするのは違和感を覚えざるを得ない(追記:書き忘れたのだが、そもそも『アイドル共和国』は前番組のタイトルで、著者が言いたいのは『桜っ子クラブ』のことだろう)。 秋葉原にあるライブハウスに出演したり、秋葉原でリリイベをする地下アイドルは多数存在するが、著者が主張するような秋葉原を活動の拠点としている地下アイドルなどほとんど存在しないだろう。ももいろクローバーの躍進を語るのに、AKBの有料動画配信とももクロの無料のUstream配信を対比しないのはどうだろう。ロックとアイドルの境目が消えたという項目で取り上げられるのが著者お気に入りの3776だけで、BiSwack系のアイドルについて触れないのはさすがにどうだろう。パンクモチーフの地下アイドルというのは偶想ドロップなど何組かは存在してきたが、著者の認識ほど一般的ではないのではないか(そもそも著者はパンクに対してほとんど知識がない)。書き出すとキリがないのでやめるが、興味がないであろう対象に対する知識及び扱いは本当に雑である。

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