しかし、著者があからさまに他の項目より力が入っているNMB48、そのなかでも特に気に入ってるであろう須藤凛々花や木下百花に対する記述が懇切丁寧というわけではない。須藤に関しては哲学、高偏差値、早瀬優香子を地で行くという、著者のツボにはまったポイントの話はするが、彼女のアイデンティティーの中で重要な部分を占めていると思われる、Jラップのヘビーなリスナーである側面には全く触れない。(木下百花は)「サブカルチャーの造詣が深く、好きな音楽は日本のパンクバンド、 JOJO広重率いる非常階段、日本のラップと語る」(562pより引用)と記しているが、木下自身が語る好きなバンドは高円寺百景、ゆらゆら帝国、マキシマムザホルモン、ナンバーガールといったところが多く、確かにスターリンやINUも好きだと思うが、いわゆるパンクバンドでないバンドが多く、日本のパンクバンドというのは雑すぎる。「JOJO広重率いる非常階段」という表現も適当で「ベテランノイズバンド・非常階段」とかならわかるが、バンドがどういうバンドか全然伝わらないし、広重氏が率いてるといったバンドでもないと思うのだが。日本のラップという表現も雑だろう。もし、彼女自身がこのような表現をどこかで使っていたことがあったとしても、引用ではなく著者が情報として第三者に伝えたいのなら、より明確な表現をすべきではないか。また、木下とサブカルチャーといえば、吉田豪とのトークイベントを開催したという部分は意味合い的に特筆すべきなのではないかと思うのだが、全然触れていない。
結局のところ、著者は好きなはずのアイドルに対しても誠実に考えることなく、自分にとって都合のいいところを取り上げているだけなのだ。勝手な理想像をアイドルに押し付ける迷惑なオタクとなんら変わりはない。
元々、文章が上手い人ではないが、文体に関しては旧著よりも読みにくいものになっている。著者のTwitterでの文体は、情報量を1ツイートに押し込めようとするため、字数節約のために体現止めが多い。また、1文ごとに内容的な飛躍が多く、全体を読んでも何を言いたいか支離滅裂で理解するのが困難であるという特徴が見られる。Twitterの文体よりは若干読みやすくはなっているが、基本的にその特徴がそのまま反映されてしまっているのだ。
これには同情すべき点もあって、著者の過去の発言から察するに、本来のさらに膨大な原稿量を削って出版可能な分量にするために、文章に大幅に手をいれる必要があったため、文体がひどくなってしまったのだと思われる。そうでないなら、Twitterのやり過ぎで文章力が劣化したということになってしまうわけで、そういう悲しい事実は存在していて欲しくはない。そういえば、企画・編集が著者の勤務先になっており、個人的な著作を会社での仕事に結びつけるバイタリティーには感心した。
駆け足でポイントを触れているだけなのに、おそろしく長文になってしまい多大な疲労感におそわれている。最後にまとめるなら、いくつかの良いポイントはあるものの、この本をちゃんとした資料として扱うのは著者の資料の取り扱い方に疑念が残るので、巻末に書いてある資料を参照に原典にあたってみるのが良いだろう。基本的には昔のドルオタがやっていたテキストサイトのような内容であり、楽しみ方としては読んだ人たちで集まってワイワイ騒ぎながら、ここが凄い、あれが凄いと話し合うのが良いかと思われる。
(この記事は2018年6月に発表されたものの再掲です。本文は当時のままであり、地下アイドルシーンの状況など、一部現在の状況とは異なる部分があります。)
〈金曜連載〉
画像/田中雄二『AKB48とニッポンのロック ~秋元康アイドルビジネス論』(スモール出版)
あのちゃんについて:ロマン優光連載145
南部虎弾のお通夜にコロアキ乱入:ロマン優光連載276
百田夏菜子さん、ご結婚おめでとうございます:ロマン優光連載274
アイドルオタクが通りすがりに見たトー横と大久保公園:ロマン優光連載271
PROFILE:
ロマン優光(ろまんゆうこう)
ロマンポルシェ。のディレイ担当。「プンクボイ」名義で、ハードコア活動も行っており、『蠅の王、ソドムの市、その他全て』(Less Than TV)が絶賛発売中。代表的な著書として、『日本人の99.9%はバカ』『間違ったサブカルで「マウンティング」してくるすべてのクズどもに』(コアマガジン刊)『音楽家残酷物語』(ひよこ書房刊)などがある。
twitter:@punkuboizz